会報「SOPHIA」 平成22年9月号より

シンポジウム「われらと生き物の未来U」




公害対策・環境保全委員会 委員 鈴木 和貴
1 はじめに
 平成22年9月18日(土)午後1時より愛知大学車道校舎において、シンポジウム「われらと生き物の未来U〜生物多様性環境訴訟の現状と課題」が、中部弁護士会連合会、当会及び日本弁護士連合会の主催で行われました。
 本シンポジウムは、昨年開催されたシンポジウム「われらと生き物の未来〜市民がつくる生物多様性地域戦略」に続くもので、本年10月18日より名古屋市で開催される生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に合わせて企画されました。
2 環境訴訟の現状と課題
 設楽ダム住民訴訟、静岡空港反対訴訟、泡瀬干潟埋立公金支出差止訴訟について、それぞれの訴訟を担当する住民側弁護士から報告がありました。泡瀬干潟埋立公金支出差止訴訟では、地裁及び高裁で公金支出の差止めが認められるという画期的な判決が出されたとの報告もありました。
 しかし、各住民側弁護士からは、裁判所は行政裁量行為に対しては踏み込んだ審査をせず、結論において行政裁量の違法性については十分な分析・審査を行わないまま、最終的には「著しく合理性を欠くと断ずることはできない。」として違法判断はせず、司法判断における行政裁量の壁は依然として厚いとの意見が述べられました。
3 基調講演
 「行政裁量に対する司法統制の在り方−現状の問題点と解決の方向性」というテーマで、早稲田大学法務研究科教授畠山武道氏による基調講演が行われました。
 基調講演では、これまでの裁判例の流れ、行政事件訴訟法30条の問題点、近時は裁量の基礎となる事実の欠如・誤認等の理由で違法とする裁判例が目立つこと等について説明がありました。
 また、今後の行政訴訟の在り方については、住民側は公益の代表者として公益につながる主張をするべきである、行政は事実認定から結論に至る経過の合理性について説明するべきで、裁判所に対する資料提出義務、審理への協力義務があるというべきである、裁判所は公益の実現の一翼を担う立場で、行政をコントロールし、行政も公益を実現しているかどうかを審理すべきであるとの話がありました。
4 パネルディスカッション
 パネルディスカッションでは、現在の日本の環境訴訟における問題点として、自然保護訴訟では原告適格が問題となるため、住民訴訟という手段が利用されやすい、他方で行政裁量の壁は厚く、住民訴訟でも主張立証上の困難を伴っているが、裁量の基礎となる事実について積極的な主張立証と審理を行うようにすべき等の意見交換がされました。  また、今後の課題として、環境団体訴訟の導入、科学的知見が明らかでない場合には環境に対する不可逆的な負荷を避けるべきという予防原則の導入、裁判員裁判の環境訴訟への導入といったテーマが取り上げられました。
5 最後に
 本シンポジウムには100名を超える弁護士や市民が参加し、大変な盛況ぶりでした。生物多様性は私たちの未来に関わるテーマであり、是非関心をもっていただきたいと思います。