会報「SOPHIA」 平成22年9月号より

日本に住む外国人夫婦の離婚事件について




人権擁護委員会 国際人権部会 委員
大坂 恭子
<相談>
 私は日本に住む中国人ですが、同じく日本に住む中国人夫と離婚し、私が子どもを直接養育したいのですが、もめています。話し合いから始めたいので、調停から手続きを始めることはできますか。
■はじめに
 外国人の方が当事者となって家事事件を進める場合、一般的には、まず管轄の問題と準拠法の問題をチェックする必要があります。管轄は、どの国の裁判所でその事件を扱うかという国際裁判管轄権の問題であり、準拠法は、離婚や親子関係についてどの国の法律を適用するかという問題です。
■国際裁判管轄権について
 今回のケースでは、両当事者の住所が日本ですので、特に管轄の問題はありません。ただ、一般論としては、判例の集積と条理により、家事事件の場合は、原則として相手方の住所地に管轄を認めるとされており、「原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合」(最高裁昭和39年4月9日)等に例外が認められています。
■準拠法について
 準拠法は、離婚、親子関係等法律関係の性質ごとに「法の適用に関する通則法」(通則法)に従って、決定することになります。  離婚については、通則法27条、25条が@夫婦の共通本国法、A夫婦の共通常居所地法、A密接関連地法の順で準拠法を決定するとしています。本件では、夫婦がいずれも中国国籍の方ですので、準拠法は、上記@の場合として中国法となります。
 また、親子の法律関係については、通則法 32条が@父または母の本国法と子の本国法が同一の場合は子の本国法、Aその他の場合は子の常居所地法という順に準拠法を定めています。本件では、父母と子がいずれも中国国籍ですので、親子関係についても中国法が適用されることになります。
 したがって、本件は日本の裁判所で、離婚事由の該当性、子の養育者の指定を中国婚姻法に従って、判断されることになります。
 なお、中国婚姻法は、「授乳期後の子について、父母双方の間に扶養問題で争いが生じ、協議が調わない時は、人民法院が子の権益及び父母双方の具体的状況に基づいて判決する」と定めており、日本の家庭裁判所がこの判決をできるかという問題がありますが、裁判例では、家事審判法9条乙類4号の審判により代行できるとされています(家庭裁判月報44巻10号47頁等)。
■調停と審判の効力について
 次に、調停の可否については、準拠法の問題とは切り離して、「手続は法廷地法による」という原則があるので、調停前置主義を手続と考える前提に立てば(家裁で概ね採用されているそうです)、日本に裁判管轄がある以上、調停前置主義の適用があることになります。そのため、本国の調停手続きの定めにかかわらず、調停を希望する場合、日本で調停申立てが可能です。
 ただし、日本の裁判所で手続きが進められるかと、如何なる手続きを経れば、本国においてその効力が承認されるかという問題は全く別の問題です。本国で離婚等の効力が承認されるかどうかについては、その当事者に応じて事件毎にその国の大使館等へ確認する必要があります。