「加速する『子どもの貧困』」
プレシンポジウム開催
会 員 犬飼 千絵子
- 人権擁護大会プレシンポジウム「加速する『子どもの貧困』〜子どもの幸せのために社会ができること〜」が、本年9月23日、三重弁護士会と当会の主催で開催されました。
- 第1部の前半は、北海道大学大学院教授松本伊智朗氏の基調講演でした。子どもの時期に社会に対する肯定的な感情をはぐくんでほしいというお話の後、@「働いていても貧困から抜け出せない」、A税制や社会保障が貧困を減らしていない、という日本の政策の特徴についてのご説明がありました。最近は、親の役割が増すとともに、子育ての基準が上がっているため、親の格差がダイレクトに子どもに影響する社会になっているというお話もあり、「子どもの貧困」を社会全体の問題として考える視点がよくわかりました。
- 第1部の後半は、子どもたちと身近に関わる方々のリレートークでした。保育園園長の方から(家庭が貧しいため)自分だけ遠足のお弁当が準備できない不安感で遠足の前に荒れる子がいるという胸が痛むお話がありました。児童相談所職員の方から非行や虐待と貧困の関係について、全日制高校や定時制高校の教師の方から生徒の状況について、愛知県から中長期的視野に立った子育て支援策「はぐみんプラン」の説明がありました。唯一当事者として発言されたのが、子どものときに母親との死別や父親の破産を経験した大学生の方でした。不安だった気持ちや奨学制度を利用して大学に進学した経験を話され、自分の人生を切り開く力強さを感じました。
- 第2部は、松本氏と、NHK「セーフティーネット・クライシス」制作チームのディレクターの中澤陽子氏、山田香織氏の対談でした。コーディネーターは森弘典会員です。
中澤氏・山田氏が、子どもたちが影響を受けている実態を映像でわかりやすく伝えられました。高校教師が、授業料などが支払えない家庭の生徒に対しバイトを促す映像の後、学校につなぎとめなければ、暴力団・風俗業に流れてしまうから、厳しいようでもバイトを促すしかないという教師の思いが紹介されました。次に、フィンランドの制度が紹介され、子育てに経済的不安は一切ないという親子の映像が流れました。教育を投資と考え、高い税金を支払い、セーフティーネットを支える社会全体の合意があるということでした。その後、離婚し、保育園に空きがないために働くことができず、手当などの少ない収入で生活する母と子の映像が流れ、現実に引き戻されたように感じました。対談の最後には、松本氏から、子どもの貧困という問題への関心を持続させることが大事、弁護士の役割にも期待しているというお話がありました。 - 「子どもの貧困」は、子どもの時期に安心感や社会への肯定的な感情をめばえさせ、希望をもって生きていけるようにするという重要なテーマだということがわかりました。未来ある子どもたちが、貧困が原因で希望が持てなくなってはいけないし、子どもたちが声をあげられないからこそ、周りが継続的に関心を持っていく必要があると感じました。