会報「SOPHIA」 平成22年8月号より

「特集 中高生のためのサマースクール」

子どもの、子どもによる、子どものための裁判

〜7月29日 サマースクール・ティーンコートを終えて〜

法教育特別委員会 委員 佐々木 啓太


 今年の事案は、中学2年の少年が、小学校時代に親友だった友人から悪口を言われたことに腹を立て、顔面に靴を投げつけ、眼窩壁骨折を負わせてしまう、という傷害事件である。例年のアンケートに、『もっと重大事件をやりたかった』との声が多く、今年はそれを踏まえ、傷害事件をチョイスしたものであった。
 ルール説明の後、早速弁護側・検察側双方が少年と打ち合わせ。子ども達は緊張と戸惑いを隠せず、なかなか自分からしゃべり出そうとしない。例年通りの展開に、サポート役の弁護士が助言を重ねる。少しずつ質問が増え、子ども達がノッてきたところで、終了。少年役の弁護士が部屋を出たとたん、「あ〜、緊張したぁ〜!」と声を上げる生徒さん。模擬少年とは言え、子ども達にとっては、本当の犯人のように感じていたのかもしれない。

 いよいよ尋問である。これもまたなかなか質問の口火が切られない。こういう時は、少しやんちゃな男子生徒でもいるとありがたいのだが…。しかし、次第にサポート役の弁護士の助言なしでも質問が出るようになる。「反省しているのですか?」「被害者とその家族には謝ったのですか?」など、強い質問に、少年役の弁護士も「い、いや…」と押され気味。子ども達の目は、真剣そのものだ。

 最後は裁判官の評議。今度は裁判官役の子ども達の言葉が止まる。「彼(少年)には何が足りないんだろうか…」というサポート役の弁護士のつぶやきに、とっさに答えた裁判官役の女の子。「言葉が足りない」。パソコンや携帯によるネットに依存し過ぎ、人とのコミュニケーションが圧倒的に不足しているとのこと。現代に生きる子どもの視点が生々しく垣間見れた瞬間だった。

 結果、「2年終了時までパソコンや携帯電話の使用禁止。自分の口や手紙で他人とコミュニケーションを取ること」という処分。「なるほど!」と感心したが、冷静に考えると…相当キツいね、それ…。
 さらに驚いたのは、終了後のアンケート。「被害者やその親、加害者の親の尋問をしたかった」という声が多数あった。子ども達のその感覚に、感心を超えた嬉しさのようなものを感じた。
 今回私が担当したのは、中学生コートの司会者。その冒頭、『子ども裁判所は、日本にはありません。でも、ティーンコートという名前で、実際に子ども裁判を行っている国もあります。』と説明した。子ども達のモチベーションアップに繋がってくれれば…との思いで説明したが、よくよく考えてみると、裁判員裁判が行われている今日、『子ども裁判』があってもいいのではないか。そんな風に思わせてくれるティーンコートだった。
 少年によっては、「保護観察」よりも「1年間パソコンや携帯の使用禁止」の方が、より更生に効果があるのではなかろうか(笑)。