会報「SOPHIA」 平成22年7月号より

「子どもの貧困」をなくすために

〜「子どもの貧困」に対する弁護士の取り組みの意義と必要性〜


多重債務対策本部 事務局次長
人権擁護委員会 生活保護問題部会長
森   弘 典
1 「子どもの貧困」とは

「貧困」という事実を子どもに焦点を当ててとらえたもので、子どもが経済的困難と社会生活に必要なものの欠乏状態におかれ、発達の諸段階におけるさまざまな機会が奪われた結果、人生全体に影響を与えるほどの多くの不利を負ってしまうことを言います(『子どもの貧困白書』(明石書店))。


2 「子どもの貧困率」

2009年10月20日、厚生労働省は、初めて、わが国の「相対的貧困率」とともに、「子どもの貧困率」を発表しました。

「相対的貧困率」(以下「貧困率」)とは、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の「中央値」の半分に満たない世帯員の割合です。

これによると、2007年における17歳以下の「子どもの貧困率」は15.7%で、7人に1人の子どもが「貧困」状態にあり、「ひとり親世帯」で見ると、「貧困率」は54.3%で、2人に1人が「貧困」状態にあるという結果になっています。


3 諸外国の取り組みと日本政府の姿勢

例えば、イギリスでは、トニー・ブレア政権が「子どもの貧困」を2004年までに4分の1に減らし、2010年までに半減させ、2020年までになくすという具体的な目標を設定して、子どもが生まれてから社会に出るまでの継続的な支援プログラムを策定・実行し、子どもがいる世帯への経済的支援を充実させています。フィンランドでも、親が子どもを生み育てられるよう、必要な物質的・心理的支援、環境提供がなされています。

他方、日本では意識的な取り組みがなされてきませんでした。しかし、「貧困」は、子どもの健康、適切なケア、他者との関係性、教育、さらには学習意欲、希望、自己評価にも影響を及ぼし、生まれたときから可能性や選択肢が制約されるという社会的不公正を生じさせ、さらに、その不公正が次の世代にも引き継がれ「貧困の世代間連鎖」を生じさせます。見過ごしていていいのでしょうか?


4 ホットライン実施と今後の取り組み

これまで当会では、「貧困」一般に関しては、ワンストップの出張型相談会やホットラインの実施、シンポジウムの開催などの取り組みをしてきましたが、日弁連も含めて「子どもの貧困」に関しては特別な取り組みをしてきませんでした。

6月21日、「子どもの貧困 生活費・教育費ホットライン」を実施したことは、当会がこの問題に取り組む第一歩として位置づけることができます。また6月16日には、各種相談に対応できるよう、子ども手当などの各種手当や保育、就学援助、授業料無償など各種制度に関する勉強会を実施しました。

ホットラインには元教師にも協力していただきました。このように、弁護士として個別の「貧困」に対処していくだけでなく、社会全体として子どもを育てていけるよう社会に対して問題提起をし、実現していく必要性は高いと思います。

日弁連は今年10月7・8日に盛岡市で開催される人権擁護大会で分科会を開催します。さらに当会では、9月23日、中区役所ホールで、シンポジウム「加速する『子どもの貧困』〜子どもの幸せのために社会ができること〜」を開催し、引き続き「子どもの貧困」に取り組んでいきます。

現状のまま放置しておくことは社会にとって最悪の状況を招きます。是非ご協力をお願いいたします。