改正貸金業法完全施行を受けて
〜全国一斉多重債務相談会及びサラクレ研修会が開催されました!〜委員 草 野 有美子
- 1 はじめに
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平成18年12月、国会で可決・成立した改正貸金業法が、平成22年6月18日から全面的に施行されました。
これに伴う総量規制の導入は、資金需要者に大きな影響を与える為、債務整理に関する相談が増加することが予想されました。
そこで、全国で「改正貸金業法完全施行・全国一斉多重債務相談会」が実施されることとなりました。
当会でも、電話相談や名古屋法律相談センターのサラクレ相談枠の増設を実施し、さらに、サラクレ相談員を対象として改正貸金業法施行についての研修も行いました。
以下では、電話相談会及び研修の実施状況を報告いたします。
- 2 全国一斉相談会
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(1)電話相談会概要
当会では、6月15日から6月19日にかけて消費者問題対策特別委員会の委員を中心として、電話相談を実施しました。
(2)相談件数及び相談内容
5日間で寄せられた相談件数は、69件でした。
そのうち、改正法の内容に関する質問・相談は、19件でした。その中の殆どが、総量規制に関する質問・相談でした。
具体的には、突然、借り入れが出来なくなり、これからどうやって生活したらいいか困っているといった相談や、今後、借り入れがどの位できるか、自身の借り入れが総量規制の対象となる借り入れに該当するか等の相談が寄せられました。
- 3 サラクレ研修会
- (1) 研修概要
6月18日、当会会館5階ホールにて、当会の平井宏和会員を講師に迎え、「改正貸金業法施行について」をテーマにサラクレ研修会が開催されました。
同研修は、サラクレ相談員向けの義務研修であったものの、サラクレ相談員以外の会員の方々にも多数出席いただきました。
平井会員からは、改正の背景と経過、改正法の内容及び利用者への影響について、説明がありました。
(2) 改正法の概要
ア 貸金業務の適正化
貸金業務の適正化のため、貸金業への参入条件が厳格化され、また、貸金業者の行為規制の強化等がされました。
貸金業者の行為規制については、取立規制の強化、借り主の自殺により保険金が支払われる保険契約締結の禁止、トータルの元利負担額などを説明した書面の事前交付義務付け等が導入されました。
イ 過剰貸付の抑制
(ア) 指定信用情報機関
信用情報機関のうち、個人の信用情報を適切に管理している等の一定要件を満たす信用情報機関を「指定信用情報機関」に指定して、貸金業者が借り手の返済能力を把握できる体制が整えられました。
これによって、原則として個人への貸付の情報は、指定信用情報機関に登録され、貸金業者が個人へ貸付を行う際には、指定信用情報機関への照会が義務付けられることとなりました。
また、個人への貸付について、一定の場合に、貸金業者に年収等を証する資料徴収により返済能力を調査することが義務づけられました。(貸金業法第13条第2、3項)。
(イ)総量規制
個人過剰貸付契約その他顧客の返済能力を超えると認められる貸付の契約は原則として禁止されました。(貸金業法第13条の2第1項)。
「個人過剰貸付契約」とは、借り手の総借入残高がその年間の給与及びこれに類する定期的な収入の金額として内閣府令で定めるものを合算した額の3分の1を超える貸付と定義されています(貸金業法第13条の2第2項)。
要するに、原則として年収等の3分の1を超える貸付が禁止されるということになります。
総量規制の対象となる貸付は、指定信用情報機関に登録されている貸金業者の貸付であり、銀行等のローンや信販会社の販売信用は含みません。
また、住宅ローン、自動車ローン及び高額医療費の貸付等については、総量規制に関わらず借り入れが可能であり、また、借入額が借入残高に算入されない、総量規制の「適用除外」となっています。
さらに、顧客に一方的に有利となる借り換え、顧客または顧客の親族に緊急に必要と認められる医療費を支払うための貸付等は、総量規制の「例外」として、総量規制にかかわらず、借り入れが可能となります。しかし、総量規制の「例外」の場合、借入額が借入残高に算入され、借入残高が総量規制の基準を超過した場合は、「適用除外」や「例外」を除き、借り入れが出来なくなります。
研修では、総量規制の「適用除外」及び「例外」に該当する貸付には、どのようなものがあるか把握しておく必要があるとの指摘がありました。
ウ 金利体系の適正化
出資法の上限金利が年29.2パーセントから年20パーセントに引き下げられました。
さらに、出資法の特例として日賦貸金業者や電話担保金融に認められていた金利(年54.75パーセント)も廃止されました。
また、ヤミ金に対する罰則が強化されました。
(3) 改正の影響
上記改正内容の中で、利用者に大きな影響を与えるのが、総量規制の導入であり、今後、「お金が借りられなくて困っている」という相談が増加すると予測されます。
研修では、「お金が借りられない」という状況であれば、直ちに債務整理を行うべきであること、多重債務者から債務整理の相談を受けた場合、債務整理の処理だけではなく、多重債務者の生活再建に向け、様々な情報提供を行うことも重要である等の指摘がされました。
- 4 まとめ
日本貸金業協会の「貸金業法改正の認知等に関するアンケート調査」(平成21年10月26日公表)によれば、消費者金融から借入残高のある者のうち約半数が、借入残高が年収の3分の1を超えているという結果となっています(但し、平成21年8月の調査結果)。
上記データからも、総量規制の導入が多くの人に影響を与えるといえます。
したがって、今後も、市民への情報提供や相談体制の強化等が必要となると思われます。