会報「SOPHIA」 平成22年5月号より

国民の司法参加

韓国の制度と日本の制度


裁判員制度実施本部 委員
岩井 羊一
1 光州の弁護士来名


5月22日、当会館において、韓国光州(クァンジュ)地方弁護士会・当会の共同研究会が開催された。当会の国際特別委員会は、これまでも光州地方弁護士会と交流を続けてきた。今年のテーマは「国民の司法参加」。そこで、裁判員制度実施本部からも参加させていただくことになった。

光州地方弁護士会からは、魯榮大(ノ・ヨンデ)会長以下14名の弁護士と事務局の方をお迎えした。当会からは副会長、国際特別委員会、裁判員制度実施本部、刑事弁護委員会、取調べの可視化実現本部の委員など33名の会員と修習生1名が参加した。


2 韓国の国民の司法参加制度


山田幸彦裁判員制度実施本部本部長代行から挨拶をいただいたあと、まず、光州地方弁護士会の金相訓(キム・サンフン)弁護士から、「大韓民国における国民参加による刑事裁判」の報告を受けた。内容は以下の通り。

韓国では、2008年1月1日から、「国民の刑事裁判への参加に関する法律」(参加法・参与法と訳されることもあるようである。)が施行された。

韓国の制度は、陪審制的な性質をもっているが、陪審員の評決は裁判所を拘束しない。また、過半数の要求によって裁判官の意見を聞くことができる、有罪、無罪の評議から続いて量刑についても議論する、となっている。

対象事件は、殺人、強盗、傷害致死、強姦致傷、放火などの重罪に当たる事件である。

韓国の参加法では、被告人に選択権が与えられている。また、いったん国民参加による裁判を希望する旨の意思を表示しても、所定の期間までに撤回することができる。

2年間で対象事件は569件であり、実際国民参加による裁判が行われた件数は159件(27.9%)。選択するかどうかは、やはり非人道的な事件は、量刑が重くなる可能性があり、避けられるが、同情する事情がある場合には、選択される傾向になるのだろうとの指摘があった。

韓国では、受付から公判準備期日までは平均41.2日、公判準備期日から初公判の期日は43.7日。これでも、裁判手続の開始が遅れているといわれるとのこと。通常は平均26.9日だそうである。

陪審員数は、法定刑の軽重と自白の有無によって9人、7人、5人と決められ予備委員を置くことになっている。

裁判は集中審理で行われ、1日で終了した事件が88.1%、2日で終了した場合が11.3%。なぜ公判までの期間がこれほど短く、また審理期間も短いのかは、質疑の時間も限られており聞くことはできなかった。

これまで無罪となった例もあり、無罪率は3%から8.8%に高くなったとのこと。そもそも無罪率が高いのも驚きである。

控訴審は、日本と同様に、職業裁判官によっておこなわれる。控訴審で原判決が破棄される例もあるが(27.9%)、一般の破棄率より低いとのこと。

参加した国民は概ね肯定的な評価をしているようである。

報告の後、質疑応答があった。当会の会員から積極的な質問があった。韓国でも参加法による国選弁護は2人で行うことが通常であり、国選弁護の費用は、通常の事件の倍になったとのこと。

韓国の取調べの録画制度について質疑があった。韓国の取調べでは、冒頭で、それまで何をしていたか質問してから取調べを始めるとのことで、可視化されていない取調べについても配慮がされているとのこと。日本でも参考にしつつ早期の可視化実現を期待したい。


3 日本の裁判員制度


つづいて、私が報告者として日本の裁判員制度について報告した。

日本の裁判員制度の、裁判員と裁判官が一緒に評議をすること、裁判員と裁判官が対等の権限を持つこと、被告人は裁判員裁判かどうか選べないことなどは、韓国の制度とは大きく異なる。

質疑応答で、光州の弁護士からの質問はいずれももっともなものであった。
質問を紹介すると


  • 日弁連は、司法制度改革審議会では陪審制度を提言していたと報告があったが、なぜ日弁連の意見は取り入れられなかったのか。
    (この質問は山田幸彦本部長代行(当時の日弁連の担当副会長)という、もっとも詳しい方が答えてくださいました)

  • 裁判官と裁判員が一緒に評議をすると、専門家である裁判官に誘導されないか。

  • 刑罰には、本人の更生可能性、教育の観点もあると思われるが、一般の人が判断するとその点は軽視されないか。

  • 控訴できるのか。控訴審の裁判は誰が行うのか。

意見交換の後、魯榮大会長の挨拶、成田清取調べの可視化実現本部本部長代行の閉会挨拶で無事閉会した。


4 感想

日本でも韓国でも、国民の司法参加が司法の改革のために検討され実施されている。韓国はよりスピーディーに、大胆に改革がされている印象をうけた。韓国、日本の制度がいずれも、陪審でも参審でもなくその両方を取り入れようとした新しい形であることは興味深い。韓国は、裁判員裁判で指摘されていた裁判官の誘導を避けるために、陪審制に近い形を取ったように思われる。一方で、裁判官の意見を聞く制度を途中から取り入れている。日本という国の制度で考えるのではなく、違う国の違う制度を実際に知ることは、考えの幅を広げ、制度の本質を理解するのに役立つことだと思った。しかも、実際にその裁判を担っている実務家同士の交流ということに大きな意義があった。

私自身、大きな視点でもう一度国民の司法参加について考えることができた。この機会を設けていただいた国際特別委員会の方々、光州から来ていただいた光州地方弁護士会の先生方に感謝したい。