会報「SOPHIA」 平成21年12月号より
当会で初めての
「災害復興に関する研修会」が開催されました
〜“災害時に頼りにされる弁護士”になるために〜
総務委員会 災害対策部会員
三島 宏太
災害対策部会員写真01災害対策部会員写真02

1   東海大地震が起こるのは時間の問題−。
  12月18日に静岡県で地震が頻発した−。
  そんなニュースを聞いたとき、「我が家は大丈夫かいな?」と心配するだけでは、弁護士としてはやや頼りないものです。「弁護士として災害時に役に立てないか?」−そんな観点からの「災害復興に関する研修会」が、奇しくも静岡県で地震が頻発した12月18日午後2時から、愛弁ホールで開催されました。これは中部弁護士会連合会として初の研修会となり、会場には当会の他、三重、岐阜県、福井、金沢、富山県の各会所属弁護士ら60名余りが詰めかけ、災害復興への関心の高さを伺わせました。講師として兵庫県弁護士会所属・永井幸寿弁護士(日弁連災害復興支援委員会前委員長)、愛知大学経済学部・宮入興一教授(財政学、地方財政論)、愛知県防災局防災危機管理課長・熊田清文さんの3名をお招きし、永井弁護士の基調講演の後、講師3名によるパネルディスカッションが行われました。司会は澤健二・当会総務委員会災害対策部会長が務めました。

2 研修の冒頭に入谷正章・中弁連理事長が開会の挨拶を行い、日弁連の「全国弁護士会災害復興の支援に関する規程」の制定(平成15年)の経緯や課題などに触れつつ、災害時に弁護士が果たすべき役割などの本研修の趣旨と、各弁護士会での災害対策充実に対する期待を述べました。

3  開会挨拶の後、自らも阪神淡路大震災で被災した永井弁護士が、「災害時の法律相談」と題して基調講演を行い、冒頭では同震災直後の生々しい取材映像も上映されました。映像では、燃えさかる炎の傍らでなす術もなく立ち尽くす消防士達、崩壊したビルの傍らを行き交う人々など、大災害のもたらす惨劇と、これに直面した人々のリアルな生活が映し出されました。
  永井弁護士からは、震災発生のわずか2日後に兵庫県弁護士会が自治体から法律相談開催の要請を受け、同弁護士らが震災直後から自治体での法律相談開催や同弁護士会・神戸市共催の電話法律相談開催に携わったこと、その相談件数は自治体での相談が震災後1年間で約10万件、電話相談は約1ヶ月間で合計4782件に達したこと、震災後3年間の神戸地裁の民事訴訟件数が減少したこと、これは法律相談の効果であるとみられることなどが述べられました。法律相談の効果としては、その他にも法秩序の維持や、精神的支援も挙げられました。
  また、民事紛争が減った原因の一つには、「震災ユートピア」とも呼ばれる被災者相互の連帯感が影響したとみられる一方、その効果は時間の経過とともに薄れることなども説明されました。
  このように大きな効果をもたらした法律相談開催につき、同震災では近畿弁護士会連合会による弁護士派遣やQ&A作成による援助が奏功した一方、支援制度整備の必要性が認識され、これを機に日弁連が上述の規程を制定したことなどが述べられました。
  医師や消防隊員などの活躍と異なり、弁護士が災害時に法律相談をする姿は周知されているとは言い難いだけに、その役割の大きさに目から鱗が落ちる思いでした。

4  続いて、パネルディスカッションに先立ち、熊田さんがスライドを用いて、過去の地震の事例・最近の地震からの課題、東海・東南海地震等被害予測調査、あいち地震対策アクションプラン(第2次)などを解説されました。
  また、宮入教授は、「自然災害の増大に対する安全・安心社会への転換の課題」と題して、「災害復興」とは何か、などについて解説されました。その中で、災害の被害が特に弱者に集中する現実や、「災害復興」とは「人間の生存機会の復興」であるべきことなどが強調されました。

5  パネルディスカッションでは、災害時には高齢者、外国人、障がい者などの社会的弱者が
  特に苦しむ側面があることや(永井弁護士)、住宅の応急危険度判定と被害認定とでは趣旨や基準に違いがあるため、弁護士としての助言の際にもそれらの制度の違いに留意すべきこと(永井弁護士)、まちづくりは住民の力で行わなければならないため、阪神淡路大震災の際には弁護士を含む6種9団体が支援したこと(永井弁護士)などが紹介されました。
  また、災害対策の課題として、「減災」戦略は有意義であるが、「半減止まり」や現実的ではない数字であるなどの課題があるとの指摘(宮入教授)、防災共同社会を推進するためには、行政のみではなく、町内会や消防団、PTAなど、地域ごとの自助・共助が重要であること(熊田さん)などが述べられました。
  パネルディスカッションの最後には、各講師がそれぞれ、「弁護士だけではだめで、他の業種や研究者、自治体との連携が大切」(永井弁護士)、「弁護士は(法整備など)マクロレベルでの協力も必要」(宮入教授)、「法律や計画はあるが、これが動くかどうかの検証と自覚が問題だ。人作りや能力を高めることが大切」(熊田さん)などと述べられ、パネルディスカッションが締めくくられました。

6  最後に、川合伸子・当会副会長が閉会挨拶を行い、弁護士が研究者・行政と連携して災害に備えることの重要性を感じたとの感想を述べて、研修会が終了しました。

7  災害時に弁護士として何ができるのか。燃えさかる炎の映像を見た当初は、弁護士にできることなど少ないと思えました。しかし、永井弁護士の実際の活躍の経緯を聞いて、法律相談などを通じて被災者の復興の手助けができると分かりました。災害復興とは被災者の生存機会の復興であるとの視点に立てば、「文系」の我々にもできることは決して少なくないのだと思います。
  他方、当会の災害対策部会も本年度に設置されたばかりであり、対策を進める必要性も強く感じました。
  最後に、当会では災害復興支援派遣弁護士を募集しています。ぜひご登録ください。