会報「SOPHIA」 平成21年11月号より

名古屋地裁裁判員裁判第1号事件を傍聴して


裁判員制度実施本部
委員 鈴木 典子
1 はじめに

このたび、名古屋地裁で10月6日から9日まで行われた裁判員裁判第1号事件の傍聴という貴重な体験をさせていただいた。


2 裁判員裁判2日目午後

第1号事件の4日間の審理のうち、私が傍聴したのは、2日目午後だった。

審理3日目に台風が東海地方を直撃する可能性が高いということで、3日目午前に行う予定の論告と弁論を、急遽、2日目午後に行うことになった。急な予定変更のために、弁護人を担当された丹羽会員、舟橋会員は大変なご苦労をされたのではないかと思う。


3 被告人質問

2日目午後の審理は午後1時半から始まり、まず、午前中から続いていた弁護人側申請の情状証人の尋問の残りが行われ、被告人の謝罪文の証拠調べが行われた。

その後、被告人質問が午後4時ころまで行われた。弁護人側の主質問は、被告人の身上・経歴→犯行に至る経緯→犯行態様→謝罪・反省について、という流れで質問がなされた。時系列に沿って事実が聞かれていったため、聞いている側としては自然にストーリーが頭の中に入ってきて、とても聞きやすかった。また、質問のペースも早すぎず、ちょうどいいペースで聞きやすかったと思う。また、主質問において、誘導も極力なされず、被告人自身の口から事実を語らせるという形式がとられていたのも印象的であった。


4 論告・求刑、最終弁論

最後に、検察側の論告・求刑、弁護人側の最終弁論が行われた。

検察側の論告・求刑はパワーポイントを使用しており、そうした意味では分かりやすかったと思う。

弁護人の最終弁論は、従来のスタイル(弁護人の席から書面を読み上げる方式)ではなく、証言台の前に立ち、書面を持たずに裁判官及び裁判員に語りかける形式で行われた。時間は約20分であり、前半を丹羽会員が担当され、後半を舟橋会員が担当された。配付資料は、最終弁論が終わった後に裁判官及び裁判員に配布された。

上記のようなスタイルがとられることにより、最終弁論が行われている間中ずっと、裁判官も裁判員も、弁論を行っている弁護人を真剣な眼差しで見つめ、弁護人の主張を一生懸命聞いてくれている様子だった。

また、印象的だったのは、弁護人側からも量刑意見が主張されたことである。そして、この量刑意見を根拠づけるものとして、最高裁の量刑データベース検索結果が提示された。この資料の利用により、弁護側の量刑意見が理論的かつ説得的なものとなったと感じた。

裁判官3人及び裁判員6人が目の前にいて、傍聴席も埋め尽くされているという状況の中、書面を持たずに、20分もの間、証言台の前に立って最終弁論を行うということは、とても勇気のいることだと思う。しかし、最終弁論が行われている間、真剣な眼差しで弁護人を見つめ一生懸命その主張を聞いてくれている裁判官と裁判員の様子をみて、このスタイルで弁論を行うことの効果の大きさを感じた。


5 最後に

裁判員裁判対象事件が続々と起訴される中、今後弁護人として選任される日は必ず来る。その際は、名古屋地裁第1号事件の弁護人の方々のように積極的に活動していきたい。