会報「SOPHIA」 平成21年10月号より

犯罪被害者支援連載シリーズ21
被害者参加制度の実施状況

犯罪被害者支援特別委員会
委員 景山 智也


  1. はじめに

    平成20年12月から被害者参加制度が実施され、すでに半年以上が経過しています。最高検察庁の発表によると、制度開始から今年5月末までの時点で、224件350名の参加申出があり、許可されたのは、206件321名でした。

    日弁連犯罪被害者支援委員会では、被害者参加手続に参加した弁護士に対しアンケートを行ない、35名から40事例について回答が得られました。このアンケートについて、先月号既報のとおり、山形市で開催された第11回犯罪被害者支援全国経験交流集会において結果分析とパネルディスカッションが行われたので、ご報告いたします。


  2. 罪名について

    最高検の発表によると、参加申出のあった件数のうち、約半数が自動車運転過失致死傷の事例であり、次いで傷害(16.1%)、殺人(未遂含む。12.1%)、強姦・強制わいせつ等(以下、性犯罪といいます。9.8%)と続いています。

    被害者死亡事件が約6割に達し、重大事件や被害感情の強い事件での参加が多いことが分かります。その他、アンケート回答事例では、性犯罪が20%に達していました。性犯罪に関しては、他の事案に比べて、弁護士に依頼する割合が高いようです。


  3. 公判前整理手続の関与について

    出席を認められるケースもあるようですが、例外的なようです。検察官と十分に連絡を取り、日程調整や、遮蔽・付添の希望を早めに裁判所に伝えてもらい、被害者参加人の希望を期日指定、審理計画に反映してもらうことが求められます。


  4. 記録の謄写・閲覧について

    アンケート回答40件中35件で第1回公判前に閲覧が認められており、その余の事案は委託を受けた時期の関係で閲覧できなかったものであり、ほぼ、事前閲覧は認められています(平成20年9月5日付の検察庁通達)。自白事件では、一回結審になることが多いので、事前の閲覧を求めることは参加弁護士にとって必須のことといえます。

    謄写に関しても、上記35件中、20件で何らかの形で謄写が認められています。謄写した記録についても全部を遺族等参加者に見せるべきでなく、遺体解剖写真など一定の配慮が必要な記録もあるとの意見が出ました。


  5. 公判での問題点について
    (1)付添・遮蔽
    40件中11件で実施されており、性犯罪に限らず、傷害罪でも実施事例はあるようです。
    (2)被告人質問・証人尋問について

    情状証人に対する尋問がなされたのは、40件中15件で、そのうち13件が弁護士によって尋問がされていました。情状証人を弾劾したいという参加人のニーズが高いこと、反対尋問という性質上、尋問技術の高い弁護士が行うのが望ましいといった事情が窺われます。

    これに対し、被告人質問は33件で行われ、そのうち参加人本人が行っているのが10件ありました。被告人本人に直接事実を確かめてみたい、という参加人のニーズが高く、また、証人尋問ほど即応性も高くないという理由によるものと思われます。以上のような分析ができますが、ケースに応じて、本人の自ら行いたいという希望の強さ、精神力等を十分に検討して判断し、本人が行う場合には、打合せを十分に行って、助言、サポートをすることが必要だとの意見が出ました。

    被害者参加制度の下で、参加人に被告人質問等を行うことを認めるにあたっては、参加人から感情的な質問がされることや、意見をぶつけることがなされ、裁判の場が混乱することが懸念されていました。

    委託弁護士としては、参加人と十分に打合せを行い、参加人の心情を十分に汲み取った上で、単に被告人に感情をぶつけるのではなく、被告人への反省を促し、教育的効果に結びつけられるような質問を行えるように、参加人に適切なアドバイスを行うことが期待されるといえるでしょう。

    (3)意見陳述について

    アンケート回答40件中、従前から認められている心情意見陳述(刑訴法292条の2)がなされた事案が32件、新しく認められた最終意見陳述(刑訴法316条の38)がなされた事案が32件、双方を行ったとの事案は26件ありました。

    新制度実施前は、最終意見陳述一本となるとの予想が大方でしたが、死亡事例において、故人の生前のエピソードを紹介して、その人柄を伝えたいという遺族の求めが多く、その点で、自由度の高い心情意見陳述が併用されているのではないかという分析がなされました。

    求刑意見については、アンケート回答40件中22件で実施されており、そのうち具体的量刑が述べられた事案は11件でした(その他は、「(可能な限り長期の)実刑」「重い刑事責任に応じた厳重な処罰」といった意見が付されていました。)。

    求刑意見に関しては、参加人の意見が実務上予想される量刑を大きく上回る場合に、どう対処するかということが話し合われました。

    余りにかけ離れた求刑は説得力がなく、参加人のためにならないという意見や、十分話し合っても法定刑の範囲である限りは、弁護士の意見を押しつけるべきではない、という意見が出ました。

  6. 全体の感想

    アンケートの回答の中には、被害者から直接苦痛を聴き、被告人が反省を深める契機になったと思われるとの感想もありました。被害者や遺族の声は、重い感銘力のあるものであり、被告人の心に響くことも決して稀ではないものと思われます。被害者参加制度の適切な運用によって、再犯防止効果につながることも期待されていると思います。

    また、アンケート回答の中に、被害者は、当初、制度に期待していなかったが、参加して被告人に被害の苦痛を伝えられたのと、被害者としてできることをしたことで被害から立ち直れそうだと、終始笑顔で語れるようになったといった報告もありました。

    参加者にできる限りのことをしたと納得してもらえるためには、私たち支援弁護士の役割がとりわけ重要であると思います。

    被害者参加制度がより実りある制度になるために、今後も努力をしていきたいと思います。






行事案内とおしらせ 意見表明