【ためになる実務】
公訴時効制度の見直しについて
近藤 朗
- 1 公訴時効制度見直しの動きについて
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法務省は、平成21年1月から「凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方に関する省内勉強会」を開催し、同年3月31日付で「凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方について〜当面の検討結果の取りまとめ〜」(中間取りまとめ)を公表した。そしてこれに続いて、同年5月から6月までの1ヶ月間、中間取りまとめについての意見募集手続を実施している。これら一連の動きは、犯罪被害者からの要請が強いことを背景としている。
日弁連は、同年6月11日付で中間取りまとめに対する意見書を発表し、法務省は、他の警察庁、各被害者団体、有識者等の意見を踏まえ、同年7月17日付で「凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方について〜制度見直しの方向性〜」(7月報告)を発表している。
- 2 主な争点について
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まずは、「そもそも改正の必要があるのか」が問題となっている。平成16年に既に「公訴時効期間を死刑にあたる罪については15年から25年に延長する。」等の改正を行った事実があるからである。
そして、見直し案の内容としては、次の4点、すなわち、「@公訴時効の廃止」「A公訴時効期間の延長」「BDNA型情報等により被告人を特定して起訴する制度」「C検察官の裁判官に対する請求により公訴時効を停止(延長)する制度」が検討されている。
加えて、仮に見直すとして、「現に時効が進行中の事件の取り扱いをどうするか(遡及効を認めるのか)。」については、被害者側がこれを強く求めているのに対し、憲法第39条違反とならないかという問題がある。
- 3 法務省の態度
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法務省は、「改正の必要あり」とする。平成16年以降に、「生命侵害犯について、公訴時効制度の在り方を見直すべきであるとする被害者等を含めた国民の声が特に明確になった。」というのが主な理由である。
見直し内容の@Aについては積極、Bについては「十分な検討を要する。」、Cについては消極の態度をとっている。
遡及効については、「憲法第39条との関係で許されないというわけではない。」としながら、「更に幅広く議論を行って検討を重ねていくべき」とする。
- 4 日弁連の態度
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日弁連は、「改正の必要なし」「@〜Cのいずれにも反対」「遡及効は憲法第39条に反する」という立場である。
@Aについて、「何十年も経過した後にアリバイを立証するのは難しく、被告人・弁護人の防御権を害する。」「被害者等の処罰感情等はともかく、多くの国民の処罰感情等は時の経過により薄れていくのが一般である。」「現在の警察の捜査能力を前提とすると、公訴時効制度を改正しても犯人が検挙されるかは疑問である。また、改正により、限られた捜査資源を有効に用いるための捜査側の合理的裁量による資源の配分が一層必要となることにより、被害者にとって不平等性が増す。」の3つの理由を掲げる。また、BCについては制度上の難点を指摘している。
- 5 今後の動向等について
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民主党は公訴時効についてマニフェストでは直接触れなかったが、本年7月作成の「政策集2009」でCに積極の態度を採っている。自民党下の法務省の態度とは異なる。
また、被害者団体の切実さからすると、「遡及効を認めるか」が大きな争点になるであろうことは疑いない。法務省の「憲法に反しないではない」という態度が、より積極に働く可能性は否定できない。