会報「SOPHIA」 平成21年7月号より

犯罪被害者支援連載シリーズ18

犯罪被害者参加公判傍聴記




犯罪被害者支援特別委員会委員
阿讃坊 明孝

1 はじめに

 先日、名古屋地方裁判所岡崎支部において、犯罪被害者が被害者参加人として被害者参加人から委託を受けた弁護士(以下、「委託弁護士」と言います)と共に公判手続きに関与する、被害者参加制度の適用された公判が開廷されました。

 被害者参加制度は、平成20年12月1日より運用が開始されています。法定の対象犯罪について、被害者側から参加の申出をし、裁判所の参加許可決定を得た被害者が、被害者参加人となります。そして被害者参加人及び委託弁護士は、刑事裁判の公判期日に出席し、証人に対する尋問や被告人への質問、事実や法律の適用についての意見陳述等をすることが出来ることとなります(刑訴法316条の33以下参照)。

 本件は、被害者参加制度が適用された愛知県内で2件目の刑事事件で、ここでは、この公判の内容をご紹介致します。


2 事件の内容

 本件事案は、自動車運転過失致死罪の被告事件であり、被告人がトラックを運転中、赤信号にもかかわらず交差点へ進入し、被害者に衝突、数日後に被害者を死亡に至らせたというもの。裁判所による参加許可決定がなされ、被害者参加人(被害者遺族である父母二人)及び委託弁護士が出廷しました。


3 第1回公判(平成21年6月9日)

 公判廷では、検察官席の後ろ側に机が置かれ、被害者参加人2人と委託弁護士が並んで座る形となっていました。

 この日は弁護側の証拠調請求まで行われました。検察側証拠の要旨の告知の際には、被害者参加を意識してか被害者側の書いた上申書が検察官により全文朗読されました。

4 第2回公判(平成21年7月9日)
 

証人尋問

 この期日においては、まず、弁護側情状証人である被告人の母親の証人尋問が行われ、弁護人と検察官の尋問の後、被害者参加人本人による尋問が行われました。

 被害者参加人による尋問は、情状証人の供述の証明力を争うために必要な事項についてのみ行うことができます。

 法で定められた手続きに従い、検察官の尋問の後直ちに、被害者参加人から検察官を通じ、予め準備された尋問事項書記載の事項に関する尋問の申し出があり、検察官が尋問は相当であるとの意見を付して裁判所へ通知しました。裁判所は弁護人に意見を求めましたが、弁護人は、書面を見ていないので答えられないと回答しました。その後、弁護人に尋問事項書が渡され、弁護人によるしかるべくとの意見を踏まえ、被害者参加人の尋問が行われることとなりました。

 尋問内容は、被告人側の被害者墓地の墓参の意思の有無等に関するものでした。おそらく検察官と被害者参加人との間で事前調整のなされた結果、検察官の尋問と重なることのない内容のものとなっていました。

 尋問終了後、被害者参加人から、許可事項以外の質問をしてもいいかどうか裁判所に対して申し出がありましたが、裁判所は、許可したのは尋問事項書記載の事項のみであるという回答を行いました。その後、検察官と被害者参加人がその場で協議をして検討した結果、被害者参加人は質問をせず、この証人尋問を終了しました。

被告人質問

 次に、被告人質問が行われ、こちらも上記証人尋問同様、弁護人、検察官の質問の後、検察官と委託弁護士がその場で協議を行い、予め準備されていた尋問事項書が検察官を通じて裁判所へ提出されました。そして、弁護人によるしかるべくとの意見を踏まえて、委託弁護士の被告人質問が行われました。

 委託弁護士による被告人質問は、意見陳述をするために必要があると認められる場合に質問が許可されますので、先ほどの証人尋問とは異なり、意見陳述に必要でさえあれば情状事項に限られず、広い範囲の質問が可能となっています。

 本件では、主として、被告人による黄色信号で交差点に入ったとの供述からの変遷の有無につき質問が行われました。


5 第3回公判(平成21年7月14日)

(1)被害者の意見陳述
 被害者参加人2名により、従前より存在する制度を使用した意見陳述が行われました(刑訴法292条の2・被害者の心情その他に関する意見陳述)。

(2)委託弁護士の意見陳述

 そして、検察官の論告求刑の後、被害者参加制度で可能となった委託弁護士による意見陳述(刑訴法316条の38)も行われました。刑訴法292条の2の意見陳述は量刑判断の資料とすることができますが、刑訴法316条の38の意見陳述は、論告と同様に、事実・法律の適用に関する意見であり、制度趣旨が異なり、この両制度が併存しています。

 委託弁護士からは、被告人質問の結果を踏まえると被告人の視認した信号が赤であった蓋然性がある点、被告人が時速50qを優に超える速度で交差点に進入したことが推断できる点などから、被告人の犯情が重いという事を指摘しました。委託弁護士の意見陳述は、訴因として特定された事実の範囲内でこれを行うことができます。本件においてもそれを踏まえて、自動車運転過失致死の訴因の範囲内で上記陳述が行われました。

 その上で、委託弁護士から裁判所に対して、自動車運転過失致死罪から危険運転致死罪へと訴因変更の職権発動を促す申述が行われました。この申述については明文の根拠はありません。この点について、当該期日においては裁判所の判断はなされませんでした。

(3)結審

 その後、弁護人の最終弁論、被告人の最終陳述により結審。本稿執筆後の8月20日が判決期日となっています。


6 終わりに

 被害者参加公判では、被害者が直接証人尋問を行い、被害者から委託を受けた弁護士が被告人質問を行っており、被害者側が具体的に公判手続に関与している点において、従来の公判とは一線を画するものでした。

 本件制度による被害者の参加には法律上の制限はあるものの、被害者が具体的に公判手続きに関与することにより、これまで公判の場においては見えづらかった被害者の実態がより鮮明に伝えられるようになるのではと感じました。同様に、被害者の被告人側への直接の尋問により、両者の関係が実感として理解できるように思いました。反面、事案によっては、もし真相解明を放棄して被害者の感情をぶつけるだけの場になってしまうと、裁判所の被害者側への心証にも悪影響があり得るかもしれません。

 被害者参加制度により、今後、被害者の公判手続きへの参加自体、被告人の内面や裁判所の心証へ与える影響があると考えられ、今後の運用に注目したいと思います。





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