会報「SOPHIA」 平成21年05月号より

〜日弁連シンポジウム「多重債務者の生活再建を実現する」〜

多重債務対策本部 委員
松澤 良人

1 はじめに

 去る5月12日、日弁連主催の多重債務シンポジウム「多重債務者の生活再建を実現する」が開催された。

2 多重債務者の現状

 現在、消費者金融の利用者数は、全国で約1084万人、うち3社以上から借入がある者は約319万人といわれている。
 今年中に完全施行される予定の貸金業法の総量規制により、多重債務者がヤミ金に手を出してしまうなどのおそれも危惧されており、依然続く経済危機と併せ考えると、現状では、多重債務者に対する早期かつ適切なケアが不可欠といえる。年間3万人を超える自殺者のうち、少なからぬ人間が借金苦を原因としていることも看過できない。

3 地方公共団体の対策

 多重債務者の惨状が問題となっているのは何も最近のことではないが、現在、多重債務者の生活再建を、官民挙げて行おうという大きな流れができているとのことである。
 官の例を挙げると、守山市(滋賀県)では、自治体が従来から有している広報媒体を利用した効率的な多重債務相談広報が行われており、野洲市(滋賀県)では、消費生活相談室が、社会福祉課や税務課等の自治体内部の他機関、のみならず、弁護士会はもちろんのこと、警察や医療機関など外部機関とも連携することにより、多重債務者の発見及び生活再建を行っているとのことである。京丹後市(京都府)でも、多重債務相談支援室と福祉事務所生活福祉課とが密に連携し合い、多重債務者の発見、生活再建を図っているとのことである。
 また、但馬地域にある養父市(兵庫県)の社会福祉士・西谷氏は、介護サービスを利用する高齢者の変化を敏感に察知し、同人の身内が多重債務者であることを発見し、生活再建を図ったご経験を語っておられた。盛岡市では、借金・夫のDV・子供の引きこもり・健康不安等を抱えて同市女性センターに相談に来た女性が、同市消費生活センターを通じて借金整理したこと等により、生活再建が図られた事例があるとのことである。
 加えて、同市は、信用事故情報掲載後、仕事で使う車の車検を通すためなど、どうしてもお金が必要になった場合に、あくまでも生活再建を目的として、そのための貸付制度を設けているとのことである。同様に、栗原市(宮城県)も、多重債務者救済を目的としたセーフティネット貸付の制度を設けている。

4 弁護士の役割

 弁護士としても、自治体により深い働きかけを行い、自治体との密な連携の下、積極的に多重債務者の発見及び生活再建を図るべきである。煖エ敏信弁護士によれば、大阪弁護士会では、平成19年、多重債務者の発見及び誘導依頼のため、大阪府下の全自治体を個別訪問したとのことである。
 本シンポジウムの最後に、宇都宮健児弁護士のお話があり、地方自治体ごとに多重債務対策が異なるのは不平等であるから、セーフティネットの全国一律化、そのための総合的社会保障システムを構築すべきと述べておられた。加えて、大量宣伝事務所などによる多重債務事件の過度のビジネス化、これに伴う弁護士と多重債務者との人的関係の希釈化を危惧され、債務整理して「ハイ、終わり。」ではなく、「多重債務者と寄り添」い、その後の生活再建にも尽力することの大切さを、改めて強調しておられた。






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