会報「SOPHIA」 平成21年05月号より

平成21年5月16日「死刑を考える日」
〜映画『休暇』で見る死刑執行の実際〜

人権擁護委員会死刑問題研究部会
委員  漆原 由香

1 映画『休暇』(2007年)について
(1)あらすじ
   寡黙なベテラン刑務官・平井(小林薫)が、シングルマザーの美香(大塚寧々)との挙式を目前に控えたある日、死刑囚・金田(西島秀俊)の執行命令が下る。執行の際「支え役」を務めれば1週間の休暇を与えられると知った平井は、新しい家族と新婚旅行に出かけるために、誰もが嫌悪する支え役に自ら名乗り出るのだった…。
(2)感想
 刑務官の日常、死刑囚の日常、そして死刑執行までの手順が、丁寧に、かつ淡々と描かれていました。あるインタビュー記事で、西島秀俊さんは、この映画は特定の結論を出すものではなく、最終的に観客が何かを感じることで完成する映画である、と言っておられました。映画上映後、講演をされた中村治郎弁護士も死刑部会の委員も、口を揃えて「観れば観るほど新たな発見がある。」と指摘されていました。最近DVD化されましたので、今度は一人でじっくり観てみようと思います。


2 中村治郎弁護士のご講演について
 映画の後、日弁連死刑執行停止法制定等提言・決議実現委員会副委員長の中村治郎弁護士から、「日弁連の死刑問題に関する取組等について」と題して、ご講演いただきました。
 まず最初に、死刑の判決が確定すると、マスコミの事件報道が終わってしまう点を指摘されました。執行というもっとも過酷な職務を刑務官に押しつけ、彼らにまったく関心が寄せられていない現状が伝わる内容でした。
 また、遺族の感情論についても、そもそも死刑制度のない国では、遺族が「犯人を死刑にしてほしい」という感情を持ち得ないのだそうです。国民の8割以上が死刑制度を容認しているということですが、世論が死刑を望むから死刑制度が維持されているのではなく、死刑制度があるからこそ死刑を望む世論が形成されるのかもしれないと思いました。

3 アンケート結果について
 100人を超える来場者から63通のアンケートを回収しました。
 「これまで、マスコミ報道を見る程度で、死刑問題について考えてみたことがない」と答えた人と、「死刑制度について、自分なりに興味を持って調べたことがある」あるいは「積極的に関心を持って、自分なりの意見を持っている」と答えた人との割合は、半々でした。
 前者のうち、死刑制度を直ちに廃止すべきと答えたのは4人、死刑制度を存置すべきと答えたのは10人だったのに対し、後者のうち、廃止すべきと答えたのは10人、存置すべきと答えたのは5人でした。
 これらの数字は、死刑制度についてより深く知ることで、死刑制度に対する意見も変わりうることを示唆していると思います。

4 最後に
 死刑問題は、まず私たち一人ひとりが関心を持ち、制度についてよく知ることから始めなければならないと強く感じました。死刑を考え、語るための活動に今後も参加していきたいと思います。






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