会報「SOPHIA」 平成21年04月号より

反貧困・駆け込み相談会
〜派遣会社と福祉事務所との狭間で困惑する派遣労働者〜

愛知派遣村実行委員会 委員長
藤井 克彦

1 私たち愛知派遣村実行委員会は、愛知県弁護士会の後援を得て、3月21日と22日に岡崎市で「反貧困・駆け込み相談会」を開催した。その趣旨は、派遣労働者が多く雇用されている三河地方で、仕事さらには住居を失った人々の生活保障を支援するだけでなく、三河地域の自治体がそうした人々をきちんと受け止め、生活保障を行うよう促すためでもあった。本稿では、具体的な相談事例をもとに、派遣会社と福祉事務所の狭間で困惑する派遣労働者の実態について報告する。

2 Aさんは派遣会社社員で、賃金の明細上の支給額は13〜15万円程度だが、寮費5.8万円、布団代3.5千円、備品代3.5千円、昼食代1.3万円、管理費千円、前貸3万円、社会保険料3万円等の名目で差し引かれ、実際の手取収入が3ヵ月連続で0円〜300円という状況であった。相談会に来た際の所持金は700円であった。もっとも、4月1日から派遣先と直接雇用契約となり、派遣元は退職するので、5月中旬には15万円程度の賃金が入る見込みであったため、それまでの生活保障をいかに図るかが問題であった。

 後日私たちはAさんの保護申請に同行した。担当したケースワーカーは、控除額は本人に還元されており、明細上の総支給額で要否判定をせざるを得ず、その場合、判定としては「要」にはなるが、具体的支給額の認定としては、結局4月に出せるお金は数千円程度にしかならないので、当面の生活費という点で保護を受ける意味がない、むしろ社会福祉協議会の貸付を受けるべきと強く説明し、しかも生活保護受給者は貸付を受けられないので、どちらかを選択しないといけないという。数千円しか入らないなら現実に生活費に困るので、私たちが連帯保証人になるので貸付を受けることを勧め、貸付を受けられるよう本人の住民票を岡崎市に移動するなど1日かけて貸付の申請をした。しかし、4月初旬に本人に多額の滞納税金があることが判明し、結局貸付不可との連絡が岡崎市よりあった。また、改めて生活保護をした場合には、3月分賃金(額面約13万円、手取り0円)の支給予定日である4月27日までの日割計算をすると要否判定は「否」になってしまうという。

3 福祉事務所の問題と私たちのミス

(1)福祉事務所は、生活保護でなく貸付を強く勧めるのであれば、貸付条件にあっているか(滞納税金がないかなど)を確認すべきであり、また、申請者は生活保護申請をしないと明言したのではない以上、申請書を一応受理したうえで、貸付が認められなかった場合には、速やかに保護開始をすべきであった(私たちは、申請はされているものと理解していた。この点をきちんと確認しなかったのは私たちの大きなミスであった)。

(2)弁護士が、4月初旬に、福祉事務所に対し、「社協の貸付を受けるべきとの担当ワーカーの強硬な説明で本人は生活保護申請を半ば諦め、1日有休をとって住民票の移動を行い貸付を申請した。しかし、結局貸付は認められず、現在も生活に困窮しているのだから、3月25日に口頭での生活保護の申請があったものと扱い、申請日に遡って保護を開始すべきである」と主張したが、担当者からは前向きの回答はなかった。その後福祉事務所は厚労省と相談したようで、3月25日付での申請は認めなかったが4月初旬の保護申請により4月末には保護費を出す方針となった。なお、Aさんは20日に緊急小口貸付を受けた。

4 このような事例は例外的なものではないという。私は建設日雇労働者などがホームレスとなっている現実に長年関わってきているが、その構造は現在の派遣労働者が貧困に追い込まれる構造と基本的に同一である。Aさんの支援をした弁護士が、派遣会社寮について「現代のたこ部屋」と表現したが、同感である。






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