会報「SOPHIA」 平成21年2月号より

特集 就職最前線(後編)


−新人弁護士(新61期)覆面座談会

   会報編集委員会 

 弁護士の大量増員時代を迎え、司法修習生の就職問題が懸案事項となっています。会報編集委員会では、1年間の司法修習を終えて昨年12月に愛知県弁護士会に登録された新61期の新人弁護士5名にお集まりいただき、弁護士を志望した動機や実際に経験された就職活動の実情や勤務先での勤務状況等について、本音で語っていただきました。
 なお、この座談会は、本音トークのために覆面での参加となっています。

   

会報  今日は、弁護士登録をして間もないお忙しい時期にお集まりいただき、ありがとうございます。修習生時代の就職活動の実際を始めとして、皆さんの本音のお話を聞かせていただきたいと思っていますので、宜しくお願いします。
 先ず最初に、法曹になろうと思った理由と最初から弁護士志望だったのかどうかを聞かせてください。
 私は、大学3年生のころに新しい司法試験制度が発表されて法科大学院ができることになったので、法科大学院を卒業して弁護士になろうと思うようになりました。当初から弁護士志望で、裁判官や検察官になろうと考えたことはありません。
 私は、理屈が好きで、高校2年生のころから法曹になりたいと思うようになりました。法曹3者の仕事の内容を調べたら、仕事が緻密で自分に一番向いていると思ったので、当初は検察官志望でした。
 中学3年のころに弁護士になりたいと思いました。実務修習のときには裁判官や検察官の仕事も面白いと思いましたが、最終的には自分には弁護士の仕事が一番合っていると思って弁護士になりました。中学3年のころに弁護士になりたいと思ったのは、当時の私は車が好きで将来はフェラーリを買いたいと思っていたので、弁護士になればフェラーリが買えると思ったからです。(笑)
会報  これからがんばって、是非ともフェラーリを買ってください。(笑)
 私は、被害者の近くで支援もできることから当初は検察官志望でしたが、検察実務修習を経て弁護士志望に変更しました。
 私は大学を卒業して地方公務員となって働き始めた後に法曹になろうと考えて法科大学院へ入学したので、妻も仕事を持っていて転勤することも難しいことや年齢のことも考え、当初から弁護士志望でした。
会報  BさんとDさんが検察官志望から弁護士志望へと変更されたのはどういう理由からですか。
 
B  弁護実務修習中の指導弁護士の仕事ぶりを見て、依頼者との距離の近さを初めて知ると同時に、弁護士という仕事は人のために何かができる仕事だと思い、指導弁護士のもとで弁護士の仕事ができるなら、検察官ではなく弁護士になりたいと心から思うようになったのです。そして、幸いなことに最終的には指導弁護士が採用してくれたので、弁護士になりました。
D  私は、検察実務修習中に組織としての検察に魅力を感じる反面、その強大さに圧倒されてしまい、検察修習が終わるころには、個人として活躍できる弁護士になろうと思うようになりました。
会報  愛知県弁護士会以外の弁護士会への登録を考えて、就職活動をしたことはありますか。
D  私は、東京や大阪で登録をすることも考えて、実際に東京や大阪の事務所を訪問したこともあります。  東京での事務所訪問の際は、面接も企業的でシステマチックに進行し、企業での採用面接と殆ど同じだという印象を持ちました。東京の弁護士会は、3つとも規模が大き過ぎるとも思いました。実務修習で接した愛知県弁護士会はとても暖かで規模もちょうど良い大きさだと感じましたので、最終的には、家族のこともあって実家のある名古屋で弁護士登録することにしました。
C  私は、大学を卒業してから企業へ勤務した経験があって企業法務にも興味がありましたので、平成19年9月に司法試験に合格した後で、東京の有名な法律事務所への就職も考えたのですが、具体的な就職活動はしませんでした。
A  私は、関西の大学を卒業していますので、大阪弁護士会への登録も考えました。大阪の多くの法律事務所は、所属弁護士の人数を増やして事務所の規模を大きくしていこうという意識が強いように感じる半面で、大きな事務所は何となく自分には合わないという感じがしました。
B  私は、他の弁護士会ではなく、愛知県弁護士会の支部にある事務所を訪問しました。  弁護修習が支部での修習だったこともあるのですが、企業関係の仕事ではなく一般の民事や家事の仕事がしたいと思っていましたし、本会には弁護士会の無料法律相談や有料法律相談がほとんどない弁護士もいると聞いたこともあり、身近な法律相談が当たり前のようにある支部で弁護士をしたいと思っていたからです。
 
会報  それでは、実際に就職活動を始めた時期や就職活動の内容を教えてください。
E  私は、修習生になった翌年の5月から就職活動を始めましたが、完全に出遅れていました。愛知県弁護士会のホームページを見てメールを送ったり電話をしたり、同期の友人らから教えてもらったりして、4、5件の事務所でボス弁と面談したところ、2、3件は採用してくれそうな感じがあり、その中の1つの事務所に2回目の面談に行って採用が決まりました。勤務先は、ボス弁とイソ弁1人の事務所でしたが、61期では私を含めて2人が採用されました。
D  私は、司法試験に合格した平成19年の10月から東京で就職活動を始めましたが、遅すぎました。東京では、司法試験の終わった6月から事務所訪問が始まって合格発表前の9月には内定が決まってしまっており、10月は現行62期の募集時期となっていました。4大法律事務所を始めとする大手の事務所では、法科大学院の卒業前後から就職活動が始まっているようです。
 名古屋では11月ころから就職活動を始めましたが、2月の弁護士会館での就職説明会以降に本腰を入れて就職活動する修習生が多かったように感じています。事務所訪問をお願いするために電話をすると「うちは女性は採らないから。」と言われて事務所訪問さえ出来ないこともあったり、3月ころには電話をすると「もう採用する人が決まったから」と断られることもありました。10件以上も事務所訪問して7月に正式に採用が決まりました。勤務先は、ボス弁と私を含めて4名のイソ弁の事務所です。
C  私は、修習生となった12月から名古屋で就職活動を始めました。電話をすると友達を連れてきてもいいよ、と言われたので、最初は「事務所訪問すると美味しいものが食べられるぞ」というノリで同じ班の友達と一緒に事務所を訪問しました。
 弁護修習中に知り合った弁護士や友人から紹介された事務所を中心に、最終的には10件強の事務所を訪問し、3月に就職先の事務所を決めました。勤務先は、ボス弁と私を含めて2名のイソ弁の事務所です。
B  西三河支部の事務所を訪問しました。イソ弁を募集していない事務所でも、事務所訪問して自分の思いのたけを話すとボス弁から「うちに来るか」と言ってもらえることになる雰囲気を強く感じました。勤務先は、ボス弁と私を含めて4名のイソ弁の事務所です。
A  私は、平成19年の6月から大阪で就職活動を始めましたが、周りの人たちは、司法試験を受験する前からサマージョブの申込みをしていて出遅れていると感じました。大阪は、新61期の採用予定人数が少なくて就職はとても厳しい状況でした。
 名古屋では、同じ年の11月から就職活動を始めました。愛知県弁護士会のホームページを見て電話をして事務所訪問をするという形式です。4、5件の事務所を訪問してそれぞれボス弁と話しをし、今のボス弁からOKが出て決まったという感じです。勤務先はボス弁と私の弁護士2人の事務所です。
会報  事務所訪問の際に自分からアピールした点があれば教えてください。
A  大阪では、事務所訪問の前に、「3点セット」といって法科大学院での成績表と択一試験の成績表と論文試験の成績表をセットで提出することは当然で、事務所によっては大学の学部時代の成績表の提出を求められることもありました。
 名古屋では、事務所訪問の際に口頭で択一試験と論文試験の成績を聞かれた事務所が1件ありましたが、成績表の提出を求められた事務所は1件もありませんでした。
D  私は、名古屋で1件だけ3点セットの成績表の提出を求められたことがありますが、採用に関して成績がどのように影響しているのかは分かりません。
A  大阪では成績が良くないと面接まで進めない、という噂を耳にしたことがあります。
会報  事務所訪問の際の面接の内容を教えてください。
 
C  数十人の応募者から5、6名に絞る際に、訪問先の事務所の弁護士が全員揃って6名程の修習生と面接することを1度だけ経験しました。面接の内容は、「法曹をめざした理由」とか「自分の長所と短所」を述べるというものでした。
A  訪問先のボス弁が2名の修習生と同時に面接するということはありました。「図面を取るときに地図がないときはどうするの?」とかの普段読んでいる本には書かれていない実務的な事項について質問されました。
B  私は訪問先のボス弁と色々な話をしただけです。その際には、ボス弁からは「事務所訪問の希望者が何人かいるので、採用する人は他にも何人かと会ってから決めるが、面接みたいなことはしたくないと思っている。」と言われました。
 大阪での事務所訪問で、訪問先の弁護士と5名から10名の修習生とでの集団面接のあった事務所が1件ありました。
 名古屋では、修習生2名と訪問先の事務所の弁護士2人とで面接したことがありました。
A  大阪での事務所訪問の際に、法律問題の書かれた紙が配られて一緒に事務所訪問している何人かの修習生でディベートをしたことが1件だけあります。
 名古屋で事務所訪問するとすぐにボス弁まで辿り着ける点が大阪と違うところです。修習生側にも大事務所志向のあることは事実ですが。
会報  勤務先の事務所での勤務条件や出勤開始日はどうですか。
E  9時30分から6時までが勤務時間ですが、実際には8時ころまでは勤務しています。ボスも私と同じような時間には帰ります。土・日は原則として休みで出勤するかどうかは全くの裁量で、忙しければ仕事をしてもいいよ、という感じです。面白い事件があるということでしたし、私自身も早くスタートした方が良いと思ったので、12月18日から勤務が始まりました。 
D  私の事務所は、9時から6時までが勤務時間で、土・日は休みが原則です。ボスは朝型で夕方の6時には事務所を出ますので、7時ころには私も帰宅します。同期の友達には、「ボスが帰らないと帰れない」という人が多いです。ボスが朝何時から事務所に出ているかは分かりません。私は、独立される兄弁との引継ぎの関係で12月24日から勤務が始まりました。
C  私の事務所は9時30分からで終りは決まっていませんが、毎週月曜日は朝9時から事務所会議があります。兄弁が、「最初のうちは早く帰れ」と言ってくれますので、終りは比較的早く、6時30分から7時ころには帰宅しています。勤務開始は年明けの1月5日からでした。
 勤務時間は決まっていませんが、9時過ぎには事務所に居るようにしています。終りの時間も決まっていませんが、担当する事件も少しずつ増えてきているものの要領が悪いこともあって、8時や9時まで仕事をしていることが多いです。ボス弁が居るから帰りづらいという感じはありません。ボスの担当している法律相談を一緒にとのことで12月22日から勤務が始まりました。
A  私は、9時すぎには出勤するようにとのことでしたので、9時20分ころには出勤していますが、終りは決まっていません。ボス弁は7時前には帰ってしまいますので、私も7時30分ころから8時には帰宅しています。土・日は原則として休みですが、どちらかは出勤しています。勤務開始は12月18日でした。
会報  事務所での仕事の仕方はどうですか。
E  ボス弁と一緒に事件を担当して、起案は自分がしてボス弁がチェックするという形です。
D  独立した兄弁からの引継ぎの形で一緒に担当する事件の他は、ボス弁と一緒に事件を担当しますが、他の兄弁と一緒に担当する事件はありません。今は、自分が依頼者から信頼されるようになるためにはどうすれば良いかを学びたいと思っています。
C  ボス弁が配転を決めています。私はボス弁と一緒に新しい事件を担当しています。起案はボス弁にチェックしてもらいます。
B  ボス弁と一緒に法律相談を受けることから始まり、ボス弁と一緒に担当しますが、事件の性質や難易度等でどちらが主任となるかはボス弁が決めます。他の兄弁と一緒に事件を担当することはありません。起案についてはボス弁が全件チェックし、修正点を助言されることもありますが、大幅な修正が必要な場合にはボス弁が修正して意見を求められることもあります。
A  起案は全件ボス弁のチェックや添削を受けます。慣れないので事件の見通しを付けることや事件を組み立てていくことが出来ないので、ボス弁と相談しながら進めるようにしていますが、自分で事件を持つんだという気持ちを持ちなさいという注意を受けることもあり、戦々恐々の毎日です。
会報  就職活動を振り返って思うことはありますか。
C  就職が厳しいという話に過敏になり過ぎたのではないかと反省しています。愛知県弁護士会では、公募はしていなくても、伝を辿って面談すると採用してくれる真面目な弁護士が多いというのが個人的な感想です。
 愛知県弁護士会のホームページの募集情報が更新されていない点は問題だと思います。他の修習地から名古屋での就職を希望している修習生が応募しても既に募集を終了していると聞いたこともあり、募集を終了した事務所は募集情報を早く削除することと募集情報の更新時を明記することはして欲しいと思います。
E  情報が錯綜していて、自分の持っている情報がアップトゥデートな情報かどうか分からない点が不安でした。この一年間は就職と二回試験への心配をメインにして過ごした気がします。修習期間が就職活動期間になってしまっていることがいいのか、修習生の修習専念義務との関係からも疑問はあります。
D  同期の多くの人が早い時期に就職が決まってしまうと、焦ってしまって就職活動で手一杯という感じになってしまって、修習中にしか出来ない本当のことが出来ていないのではないかとの疑問はあります。
A  修習生は社会人なのに、保護されているというか包まれているという感じがします。他の修習地の修習生の話を聞くと、愛知県弁護士会は面倒見がとても良くて修習生は恵まれていると思います。
会報  最後に、先輩として後輩に対する就職活動に関するアドバイスを聞かせてください。
E  面接の際に取り繕っても必ずバレるので、この人について行って将来良い法曹になるように勉強したいという気持ちを持ち続けることが大切だと思います。この意識があれば感応してくれる弁護士は必ず見つかると思います。
C  広くアンテナを張って多くの事務所を訪問することを心掛けることが大切だと思います。
D  経歴や成績ではなく、採用する側の立場に立って採用したい人物像を考えてそれをアピールすることも大切だと思います。
B  公募情報だけに頼らず、色々な伝を辿ってたくさんの事務所を訪問し、面接の際には素のままの自分を出して採用する側にこいつと一緒に仕事をしたいと思わせることが大切だと思います。事務所訪問の中でこの人から学びたいと思える魅力的な弁護士に必ず出会えますから。
A  事務所の規模に余り拘泥せず、1人で事務所訪問をしてボス弁とじっくり話をすることが大切だと思います。私自身も事務所の取扱事件も気にはしましたが、最終的な決め手はボス弁と馬が合うかどうかだと思います。新61期の中でも条件面を重視して就職先を決めた人はいないと思います。
会報  皆さん、今日はお忙しい中をお集まりいただいて貴重なお話しを有難うございました。皆さんのこれからの弁護士としてのご活躍を楽しみにしています。
 62期修習生の就職状況は皆さんのとき以上に厳しいようですが、皆さんのアドバイスが生かされると良いと思っています。
 




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