会報「SOPHIA」 平成21年02月号より

子どもの事件の現場から(80)
その淋しさに気付くのが遅かった。


会員 山 内 益 恵

  1.  その少年は、16歳男子。11月のある日、当番弁護で出動した警察署で出会いました。
     被疑事実は同種の共犯事件が3件でした。中学生のときに同種の事件で家裁に呼び出されたことがあるという点は気になりましたが、私の感触からすれば、彼の立場は従属的なもので、かつ、事件自体は比較的軽微でした。
     言葉遣いに幼さは残るものの、一生懸命敬語を使って話す様子や、私の問いに対して、きちんと目を見て返事をする態度に、好印象をもちました。
     少年の家庭は、姉と父親そして父親の恋人の4人暮らし。母親は少年が小さい頃に離婚していましたが、数年に1度くらいの割合で会っていました。また父親を優しい人と表現し、とても頼りにしていました。父親に対し、会いに来てほしいという伝言を託され、最初の接見は終わりました。
     私はこの日の少年の様子にすっかり楽観的な気分になっていました。
  2.  少年は他に数件の万引きについて取調べを受け、すべて素直に認めました。
     しかし、少年が鑑別所に移る頃から何か変な感じがし始めたのです。
     初めての身柄拘束なのに、少年には切迫感が欠けているようでした。事件に対する反省も、深まっていきません。何より家族の面会は、父親が1、2回来ただけのようでした。私から電話をすれば父親と連絡はつきましたが、父親からの相談はありません。平日は忙しいというので週末に予定した打合せもキャンセルになりました。
     少年は当時無職でした。仕事をしたいとは言うものの、じゃあ何をしようかとなると、現場仕事はきつい、店員は恥ずかしいと消極的でした。共犯事件であることを考え、地元を離れた住込みの職場を提案しましたが、少年は自宅に執着し、話は進みませんでした。
  3.  鑑別所に移り、ゆっくり話をするようになると、少年は孤独で寒々しい家庭内の様子を語るようになりました。日中、少年は部屋に籠もり、家族の気持ちはばらばらでした。父親は同居女性と入籍していたのですが、少年に告げていませんでした。
     家族との稀薄な人間関係の中で、少年にとって、共犯少年らと過ごすときだけが、自分を表現できる唯一の時間でした。少年は、父親に孤独な気持ちを伝え切れず、次々とSOSを発していたのでした。
  4.  それまで少年院もやむをえないと公言していた父親でしたが、何度か話し合い、少年の気持ちを伝えたところ、審判直前になって「妻が仕事を辞めるので自宅で監督したい」と言ってくれました。
     残念ながら結果は、少年院送致でした。しかし審判での父親の発言が少年の心に届いたのか、何もできなかった付添人に対し、少年は頑張ってきますと前向きでした。
     数日後、初めて父親から電話で、少年院は、年末いつまで連絡できるのかという問い合わせがありました。
     また、もっと早く少年と話をすればよかった、これからの少年と向き合っていきたいという父親の言葉を聞くことができ、少し救われた気がしました。






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