会報「SOPHIA」 平成21年1月号より

特集 就職最前線(前編)

採用する側から
−新米親弁覆面座談会

   会報編集委員会 

 弁護士の大量増員時代を迎え、愛知県弁護士会も毎年100名を超える弁護士が登録するようになってきました。今回は、最近初めてイソ弁を採用したなりたて親弁数名に集まって頂き、イソ弁を採用するに至った事情や最近の新人弁護士の実情などについて、ざっくばらんに放談をして頂きました。尚、座談会の参加者は覆面参加です。

   

イソ弁を採用した経緯
会報  まず、今回初めてイソ弁を採用した理由や決め手を教えて下さい。
 もともとは雇うつもりはありませんでした。たまたま、ある会合で修習生と話をしたら、就職活動で困っていたので、相談に乗っていたら、そのうちどうしてもうちの事務所に入りたいと猛烈にアピールしてくるようになりました。初めはお断りしたのですが、あまりにも気の毒だったし、本人はとてもいい人だったから採用することにしました。
 私も採用する気は全くありませんでしたが、法科大学院の関係で頼まれて採用することになりました。6月頃に決まったと思います。最近の就職活動はかなり厳しく、私が就職した時も就職難だったから気持ちは分かります。
 私は、そろそろイソ弁を採用しようと思っていました。修習生との懇親会の後、2次会、3次会にずっと付いて来ていたので覚えていて、その後、8月頃に面接に来られて採用を決めました。就職活動で驚いたのは、司法試験に受かったけれどまだ修習生になっていない人が、司法研修所採用予定という名刺を持って就職活動に来たことです。
 私は雇うつもりはありませんでした。たまたま大学の関係で知っていた方でしたが、当初は弁護士志望ではなかったので、イソ弁の採用という意識もなく気軽に話をしていたのですが、そのうち弁護士志望になってしまって私の事務所に来ました。
 私も採用する気がありませんでしたが、当時の役員から「就職説明会にブースを出してくれ」と言われてブースを出してみたところ、面接希望者が40名も来て、採らない訳にもいかなくなって採用することを決めました。イソ弁に採用した人は、熱心にアピールをしてこられたので、その人に決めました。就職活動は受ける方も大変でしたし、早く決めてあげようと思いました。
 ある日、知り合いの弁護士からお見合い写真のようなものが届き、まだ決まってない人がいるからと言われて会いました。決まりかけていた就職先を急遽断ったものの、別の就職先がなかったようで、救いを求めるようなまなざしに負けて採用を決めました。
 
給与面等の待遇について
会報  イソ弁の給与などの待遇面を教えて下さい。
 イソ弁が事務所に来た初日に、45万円×12ヶ月で賞与なしという約束をしましたが、結局賞与を支給し、600万円/年となりました。交通費は別途支給しています。弁護士会費はイソ弁の本人負担です。尚、個人事件については事務局の利用制限をしていますが、他は自由です。
 私は、最初から、そんなに給料払えないよという話をしていて、30万円×12ヶ月に賞与は2ヶ月分×2回にしています。色々、他の人から聞いてみると、500万円台が一番多かったような気がします。会費は本人負担で、個人事件は全くの自由です。
 初任は、月35万円で賞与は2ヶ月分×2回にしています。これは、私がイソ弁の時と同じにしました。交通費は別途支給しています。会費は個人負担で、個人事件は自由です。
 40万円×12ヶ月と賞与は1ヶ月分×2回です。金額は、他の人からいろいろ聞いて決めました。交通費は支給しています。会費は本人負担です。個人事件はダメにしています。
 40万円×15ヶ月の600万円/年です。個人事件は全部事務所に入れてもらうことにしています。まだ1件もありませんけど(笑)。国選事件はボランティア的な要素が大きいので完全に自由です。会費は本人負担ですが、会派の費用は1年目は事務所で出してあげました。
 35万円×15ヶ月です。私は最初全く決めていなくて、支給日の直前に決めました。イソ弁本人からは特に希望はありませんでした。会費は本人負担です。個人事件は自由にさせています。とにかく国選でも何でも一所懸命やれと言っています。
 
仕事ぶりについて
会報  みなさんのイソ弁さんの仕事ぶりはいかがでしょうか。
 仕事に限ってはひじょうに真面目ですね。私生活は知りません。いろいろまとめるのはうまいですね。書面もよく書いています。ただ、偏っているというか頭が固いという感じがします。事件については、まだ自由放任にはしていなくて、私がチェックしています。
 うちはよく働いて貰っていますよ。朝は9時から夜は午後11時過ぎまで仕事してくれているようです。私は飲みに行ってますけど(笑)。まあ、もう少し要領よくやれば、もっと早く終わるのになあと思いますよ。事件は、任せられるものは任せています。
 私の所も夜は遅いですね。自分が弁護士になった時も要領が悪かったけど、イソ弁も要領は悪いですね。仕方ないかもしれませんね。事件配分は、イソ弁でもやれそうな事件や勉強になりそうな事件を配分しています。もちろん書面のチェックはしています。
 事件処理の感想としては、修習期間が短くなったからかもしれませんが、証拠をあまり精査していないような気がします。
 うちのイソ弁はすごい調べますよ。ただ、直ぐ裁判例に拘泥してしまうから頭が固いかな。
 判例の射程範囲の分析はどうですか。
 それもうまいですよ。でも、裁判例に当てはめるだけでなく、それを乗り越えようとするある程度柔軟な姿勢があってもいいじゃないかと思っています。
 確かに諦めるのが早いですね。
 最近のイソ弁は、サラリーマン的な弁護士という感じがしますね。我々がイソ弁の頃は,最後は一国一城の主という気持ちを持っていましたが、今それが伝わってこない。イソ弁時代っていろんな弁護士の話を聞いて、それが自分の為にもなるし、顔を覚えて貰うのは大事じゃないですか。今、そういう意識が希薄ですよね。全てにおいて、自分の権利でもあり義務であることを意識して欲しいです。だから、私の場合は、任せた事件は本人の責任でやって貰っています。自由放任です。処理に悩んだら相談は受けますよ。個人事件も全く自由にやって貰っています。
 私は、もともとイソ弁という意識よりも1つ1つの事件を一緒にやる弁護団的意識で採ったのですが、事務所で多く扱っている事件とイソ弁がやりたいと思う事件が一致しないことも多くて、本当は一緒にやりたいと思う事件の殆どが、結局、私だけとか他の事務所の弁護士とかとやっています。個人事件は自由にやらせていますし、事務局も自由に使ってもよいです。イソ弁全体に言えるのかも知れませんが、イソ弁が個人事件で事務局を使う時は,多少なりとも事務局に対して気を遣うべきでしょうね。起案は、極めて早いです。
 うちのイソ弁は、仕事が遅い上に不正確(笑)。でも人柄がとてもよくて根性がある。だから一緒にやっていられると思います。事務所に入った時の法律専門家としての能力は、択一試験合格レベルくらいじゃないかな。だから準備書面なども細かくチェックしています。今は、任せられる事件は任せているし、法廷には、ほとんど一緒に行っていません。少しずつ育っています。私よりも早く事務所に来て遅くまで仕事していますよ。
 
人間関係
会報  親弁や事務局との人間関係はうまくいっていますか。
 私との人間関係は、フツーですね。仕事が終わって食事や飲みに誘うと付き合いは良いです。でも自分がイソ弁時代の頃は、親弁ともっと仲が良かったですよ。まだお互いに遠慮しているところがあります。イソ弁と事務局とはうまくいっているようです。
 自分がイソ弁のころは、毎日のように親弁に飲みに連れて行って貰っていましたから、イソ弁を誘って食事や飲みに行くことはよくあります。事務局との関係も良好だと思います。
 イソ弁との人間関係は難しいですね。私がイソ弁になった頃は、親弁から給料貰って勉強させて貰っているという意識で仕事をしていましたが、今のイソ弁には全くそういう意識がないですね。プライドが高いのでしょうか、親弁と対等と思っているのかもしれません。一緒に食事することもあまりないですね。
 私のイソ弁は社会人経験があるから事務局との関係は悪くないけど、人間関係の築き方というか気の遣い方が少し甘いですね。それから、結婚しているから、あまり飲みにも誘っていません。イソ弁はマイホーム型かな。
 Cさんは気を遣いすぎだから同じ基準で評価したらダメですよ。私なんかイソ弁が入った時は、1週間のうち5日位は自分が事務所から出て行こうかと思っていましたから(笑)。今は2日位に減りましたけど(笑)。うちのイソ弁のいい部分は、あまりへこたれないし、さっぱりしていると言うか、根に持たないタイプという点ですね。昼食はよく一緒に食べています。ここ最近、新人弁護士はダメダメと言われていますが、親弁がそれ程立派なのかと思いますよ。偉そうに言っている親弁の中には、実際には「えっー」って思っちゃう話も聞きます。
 私のところは、イソ弁の性格がいいので人間関係は極めて良好です。事務局も含めて、みんなそれなりに気を遣っていて、良い関係なんだろうと思いますよ。夜はしょっちゅう一緒に飲んでいますし、付き合いも悪くないですから。
 
イソ弁採用のメリット・デメリット
会報  イソ弁を雇って、どのようなメリットがありましたか。
 例えば、自分が事務所にいなくても、イソ弁がいてくれれば、安心ができますよね。長期間の旅行も行きやすい。それから、これまではなかなか受任が困難だった少額の事件も受けられるようになりました。ただ、気苦労は多いです。特にイソ弁の準備書面を直すのは、自分で書くよりも大変です。自分だったらこんな事書かないような内容だったりしますから。もうちょっとできると思っていたのですが(笑)・・・でも、イソ弁に来て貰ってからは楽しいですね。事件を一緒に考えているうちに、考えも整理されてくるし、良いアイデアもひらめきます。イソ弁の採用は、相性もあるので運みたいなところもありますが、採用して良かったと思っています。
 イソ弁が入ってくれて、それまで宿便のように溜まっていた事件を、イソ弁がスパッスパッと処理をしてくれたのは助かりました。イソ弁に、それ程、起案能力がなくても気にしていません。私はイソ弁の時代に、ボスからダメだダメだと言われてたし、実際優秀ではなかったですから(笑)。デメリットということではないですが、イソ弁が、私がやり甲斐を持っている事件に余り興味を持っていないので、そういう事件は余り一緒にやっていません。でも、やはりAさんの言われるとおり一緒に議論できるのは楽しいですね。お互い足らないところがあっても、人間関係が良ければ、多少の事は乗り越えられると思います。
 これまで遠方の出張などは時間がとられて大変でしたが、代わりに行って貰えるようになって、心身ともに楽になりました。デメリットは人件費が増えたことにつきます(笑)。でも、その分、税金も減ったから良かったかな。イソ弁にいろいろ指導をすることで自分も成長していると思います。雇ってみると自分の親弁の苦労も分かります(笑)。
 調べ物をして貰ったりできますね。それから、支部などの出張に行って貰ったりできるのはありがたいですね。ただ、仕事のスピードが遅いのがダメですね。任せた事件の事件管理は大変です。人間関係も難しいです。
 一人で仕事をしているよりも、一緒に仕事をしていると、意見を言い合ったりもできるので自分自身のモチベーションも上がりますね。イソ弁を見ていると自分もがんばれます。まあ、社会経験がないので、たまに思いも寄らないミスをしてびっくりすることもありますが、メリットの方が大きいかな。楽しいです。
 イソ弁には、書面を書いて貰ったり、出張に行って貰ったりしていますので、メリットは自分に時間の余裕ができたことです。好きな仕事に没頭できるし、準備書面が提出期限に間に合うようになりました。イソ弁は鍛えれば鍛えるだけ応えてくれます。デメリットはあまり感じませんが・・・・
 結局は、合う合わないが大きいんでしょうね。
 まあデメリットと言えば資金繰りかなあ。最近、1ヶ月先の資金繰りまで検討しないと不安でしょうがない(笑)。
会報  イソ弁を採用すると売上が伸びると聞いていますが、売上は伸びましたか。
全員  全く変わらない・・・(笑)
 経費を引いた後の所得はマイナスですよ。結局、私が時間に余裕ができた分、外出して事務所にいることが少なくなって、電話がかかってもほったらかしになってしまって、売上にも影響があります。これは自分の責任かぁ(笑)。
会報  イソ弁を採用した経験からすると、イソ弁を採用することによって、仕事の処理は早まるし、一人では躊躇するような事件もやれるようになり、売上は伸びてきていましたけどね。きっと2年位我慢すれば良くなると思いますよ。
 たまには交換してみたらどうかな(笑)。
会報  いつまでイソ弁でいるかというイソ弁期間の年数は決めているのですか。
 今は、いつまでもいてくれて良いと思っています。事件を一緒にやっていて、イソ弁の方が、私より着手金や報酬の金額の感覚が高いので、依頼者にお金の請求をするのが楽になりました(笑)。
会報  旧報酬基準のままで考えちゃうのかな。普通は、報酬基準よりは低額ですからね。
 3年目からはパートナーになって欲しいと思っていますが、これから相談といったところですね。
 
最後に
 これから先、まだまだ弁護士が増えて、イソ弁も増えてくるのだから、親弁の方も意識を変えなくてはダメだと思います。よく「昔はこうだった」という話を耳にしますが、いつまでもそんなことを言っているようではダメだと思います。
会報  本日は、忙しい中ありがとうございました。
 
 




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