会報「SOPHIA」 平成21年1月号より

子どもの事件の現場から(79)

終わりよければすべてよし・・・か?

   会 員   吉 川 哲 治

被疑者は18歳の外国人少年、被疑事実は共犯者5人による強盗致傷、被害者は中年の女性・・・勾留状に書かれている情報を見た時点で、私は、少年が検察官送致になることを半ば覚悟した。
 ただ、共犯事件であれば少年は従属的な役割を担っただけかもしれないし、被害者との示談が成立し、少年の保護者の協力が得られれば、保護処分で収まるかもしれないとの微かな希望もあった。
 果たして、セントレア空港警察で接見した少年は、およそ強盗致傷という凶悪事件を起こすような非行少年には見えず、事件について話を聞くと、悪い仲間に誘われ、巻き込まれる形で犯行に加わってしまったとのことであった。また、1年くらい前に放置自転車を盗んだ容疑で警察の世話になった以外には、前歴は何もなかった。
 一通り話を聞き終えた時点で、私は、これなら上手くすれば検察官送致を免れるかもしれないと思えるようになった。そして、まずは保護者との連携を取ることが大事になってくると考え、保護者の住所や連絡先を尋ねた。
 ところが、少年の両親は、日本で働いてお金を稼ぎたいという少年を残して、2年前に母国に帰ってしまっていた。おまけに、連絡を取ろうにも、電話番号も分からず、実家の住所も変わってしまっている有り様であった。だったら、両親とどうやって連絡を取っているのか不思議に思ったが、半年に1回くらいの割合で、両親が日本に在住していたころの知人を介して手紙が届くとのことであった。
 私は途方に暮れた。
 通常の少年事件であれば、親と付添人が連携することで、少年の更生に向けた色々な方策を見出せるはずであるし、裁判所も、親や親族を身元引受人に指名することで、保護観察などの保護処分を下しやすいであろう。
 しかし、少年にはそのような人的資源が(少なくとも日本には)全くないのである。
 唯一の救いは、少年が勤務していた派遣会社の担当者が、少年の真面目な仕事ぶりを評価し、少年の更生のために同居するとまで約束してくれたことであるが、これとても、派遣会社という場が失われてしまえば終了してしまうような脆弱な関係であった。
 結果、少年には検察官送致の処分が下ってしまった。
 私は、より主体的な役割を果たした共犯少年が保護観察処分となっていること、被害者と示談が成立していること、少年に非行性はほとんどないことなどを主張し、せめて試験観察にするよう訴えたが、裁判所は、保護観察にしようにも適当な身元引受人がおらず、さりとて少年院に送致する意義は乏しいと考え、刑事裁判にかけられても執行猶予が付くであろうと見越して、検察官送致処分を下したようであった。
 ところが、ここから本件は思いも寄らない展開を辿った。
 検察官は、少年が逆送されるとは思っていなかったようで、非行事実を強盗致傷から窃盗に変更した上で、事件を再び家庭裁判所に送致してきたのだ。
 そして、これは裁判所にも予想外だったようで、結局、裁判所は、少年を保護処分に付さないという決定を下して本件を終了させた。
 こうして、本件は最終的には良い結果が得られた訳だが、検察官送致処分となった時、不安の余り泣き崩れてしまった少年のことを思い返すと、最初の段階で何とか試験観察に持ち込めたのではないかと思い、自分の力不足を痛感した次第であった。






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