会報「SOPHIA」 平成20年10月号より
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全国初の「少年逆送事件」模擬裁判傍聴録
子どもの権利特別委員会委員
裁判員制度実施本部委員
金岡 繁裕
はじめに
10月29日、大阪地裁で、法曹三者による「少年逆送事件」模擬裁判が行われた。
「少年逆送事件」は、通常の成人と同様、裁判員対象事案になり得るが、
少年法55条
移送の要件である相当性の解釈や、大量かつ高度のプライバシーを含む社会記録を裁判員法廷においてどのように取り調べるか、少年を萎縮させない裁判の在り方を工夫すべきでないか等々、難しい問題を多く含む。
しかし、現状では以上のような問題に対する検討は緒についたばかりであり、模擬裁判の実施すら難しい(これは適切な記録がないという理由が大きい〜当地でも、この理由から見送られている)。これに対し独自に模擬裁判記録を作成し、模擬裁判を実施したのが、今回の「少年逆送事件」模擬裁判である。
事案の概要
事件は平成21年10月に発生した強盗致傷事件であり、通行人を数名で取り囲み、金属バットで頭部を殴りつけるなどして金銭を奪い、その際に加療見込み約6ヶ月の重傷を負わせたというものである。
被告人は、平成4年8月生まれの17歳の少年(男性)である。中学2年生の時に同種事犯で一般短期の少年院送致となり、仮退院後は真面目に通学するも高校受験に失敗し、折から暴走族仲間と再会して連むようになる。今回の事件は、暴力団関係者から金を集めるよう指示されたという設定である。
争点は少年法55条移送の是非である。
事件記録
事件記録は、薄いものであるが、社会記録としては鑑別所の意見と調査官の意見が準備されていた。何れも、少年の未熟さや生育歴を事件の背景として捉えつつ、事案の重大性に引きずられて刑事処分相当の意見を述べている印象があった。彼氏を含む暴力団絡みの関係を断ち切り、正常な生活を送れる環境を整えられるかどうかが、処分内容を左右する。方向性は二つ。
幾つかの問題点
画期的な模擬裁判の試みから他会の傍聴希望者も多く、評議は傍聴できなかった。従って、幾つか審理を傍聴して気になった点を報告する(なお、5〜8年求刑に対し、A合議体が5〜7年、B合議体が3年6月〜6年の何れも実刑判決)。
(1)社会記録の取調べ
設定では、裁判所が調査官意見を職権採用したということであり、裁判所が朗読して取り調べられた。しかし、A4にして2頁半の意見でも朗読すると分かりづらく、消化不良の感が強く、実務では、やはり調査官尋問は免れがたいと思われる。
(2)手続き上の配慮
身柄事件という設定ではあったが、模擬裁判の都合上、少年に戒具はなく、弁護人席に並んで着席していた。他方、人定質問などで特段の配慮は見られなかった。
(3)当事者の主張
検察官は事案の重大性や逆送決定をした家裁の専門性を強調し、弁護人は少年院の教育機関としての特質や逆送決定後の事情の変化を強調した。
ともに証拠を提出することなく、少年刑務所の更生機能(検察官)や、少年院出所者の再犯率の低さ(弁護人)を主張した点は手続的な疑問がある。
終わりに
記録をお借りすることも可能のようであり、適宜改訂の上、是非愛知でも実施すべきであり、関係委員会での議論が必要である。
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行事案内とおしらせ
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