会報「SOPHIA」 平成20年9月号より

愛知県弁護士会とモンゴル弁護士会は友好協定を締結しました

国際特別委員会 委員 田邊 正紀


愛知県弁護士会は、平成20年9月9日、モンゴル弁護士会との間で、友好協定を締結しました。

近年、各弁護士会は、国際化の進展に伴い、韓国、中国、台湾などのアジアを中心とした弁護士会と友好協定を積極的に締結しつつあります。このような流れの中、当弁護士会がモンゴルを選択したのは、当職が、平成16年から2年間現地に赴任して法整備支援活動に参加したことに加え、多数の当会会員が講師等として現地を訪問したり、多数のモンゴル人法律家を研修員として当会に迎え入れるなどの活動を通じて、人間的関係が深まり、モンゴル側から将来にわたる交流を強く望まれることとなったためです。

外国の弁護士会との交流は、国際感覚を養うとともに日本の制度を見つめなおす絶好の機会となりますし、同時に相手国の弁護士会の発展にも寄与することとなり、異文化を楽しみながら国際貢献を行うこともできます。

当会とモンゴル弁護士会は隔年訪問を継続していく予定ですので、多数の会員が参加していくことを望みます。



 


モンゴルで大歓迎を受けました

国際特別委員会 委員 服部 由美


  1. モンゴル弁護士会と愛知県弁護士会は、田邊正紀会員がJICA長期専門家としてモンゴルに赴任されてより、様々な交流がおこなわれてきているが、今般、両弁護士会の間で友好協定が締結される運びとなり、モンゴル弁護士会設立80周年記念イベントにあわせ、国際特別委員会を中心とした本会会員8名にて、モンゴルを訪問した。


  2. 9月16日深夜、韓国経由でウランバートルに到着した。空港では、現在、JICA長期専門家としてモンゴルに赴任している飯塚美葉弁護士が出迎えてくれた。空港から舗装の行き届かない道をウランバートル市内へ向かうバスの中で、飯塚弁護士より、マンホールの蓋が開いていることがあるので足元に気をつけて街を歩くように等との注意を受けた。


  3. 2日目午前中、スフバートル区裁判所を訪問した。裁判所長室に招き入れられ、所長より説明を受けた。モンゴルでも三審制が採られているが、スフバートル区裁判所は、ウランバートル市の中心街を管轄とする第一審裁判所で、1年間に、民事4500件(うち2割は家事)、刑事400件、行政800件程を処理しており、裁判官は13人、異動は基本的にないようであり、60歳定年制がとられているとのことである。法廷見学では、刑事法廷で、検察官席の横には被害者の席が、裁判官席の近くには民間人の代表の席が、それぞれ設けられていたのが印象的であった。

    昼食は、モンゴル弁護士会国際交流委員会のご招待で、モンゴル料理を堪能した。個人的には、ここでいただいたシャルサン・マハ(羊肉の炒め物)やノゴートイ・シュル(野菜スープ)が大変口に合った。

    午後、調停センター、法務内務省及びJICAモンゴル事務所を訪問した。

    調停センターは、2006年5月に弁護士会の一つの組織として設立されたもので、その設立にはモンゴルに赴任されていた田邊会員が尽力されており、また、その後の調停人育成研修には本会も深く関与している。モンゴル弁護士会から派遣された10人が2人ずつ交替で調停人を務めており、1ヶ月に扱う件数は、法律相談が30〜40件、調停が3件程、貸金返還請求が多いとのことである。

    法務内務省訪問では、事務次官との面会が直前にキャンセルされ残念であったが、行政管理局長より、法務内務省と弁護士会との関り等について説明を受けた後、法務内務省内にある飯塚弁護士の勤務するJICA法支援プロジェクトオフィスを拝見した。

    JICAのモンゴル事務所は、1997年に開設され、現在約30人の日本人スタッフを擁し(なお、モンゴルの在留邦人は約300人)、モンゴルの市場経済化のための制度整備・人材育成、地方開発、環境保全等の分野で、技術協力、無償資金協力等を行っている。所長によれば、モンゴルでは、韓国企業の進出が進み(在留韓国人は約3000人)、日本企業の進出が進まないのが残念とのことであった。


  4. 3日目の午前中は、モンゴル弁護士会と国会を訪問した。

    モンゴル弁護士会では、弁護士会会長による弁護士会80周年記念の勲章授与式の最中であり、飯塚弁護士のみならず、なんと、訪問した本会会員全員に対し、勲章が授与された。会長室では、馬乳酒(アイラグ)をいただいた。丼のような容器に入れて回し飲みをする。ヨーグルトの腐った味がすると聞いていたが、そう思って飲むと、意外にいけるとの感想を持った。

    その後、モンゴル弁護士会会員数名に付き添われ、国会(国家大会議)を見学した。国会の建物に入るには、さすがに厳重なセキュリティーチェックを要した。モンゴルの国会は一院制で、与党が人民革命党、野党は民主党、本年6月の総選挙の際に起きた暴動が記憶に新しい。定数は76名(モンゴルの人口は約250万人)、名古屋市会議員の定数は75名(名古屋市の人口は約220万人)であるから、人員の規模としては、同程度といえる。

    午後には、ウランバートル郊外のテレルジまで足を伸ばした。ウランバートル中心街を離れると、道は未舗装になり、ゲルが現れる。ウランバートル市民の6割は、今でもゲルに住んでいるとのこと。モンゴルというと、草原のイメージがあるが、ウランバートル近郊は、木立や川が散見され、とても美しい風景だった。ちなみに、モンゴルでは、遊牧民族国家らしく住所という観念がなかったそうで、郵便配達制度もない。訴状の送達は、裁判所が行ったり、地方では裁判官が出向いたりするということだ。

    テレルジでは、素晴らしい大自然の中で乗馬を楽しんだ後、牧場主より、ゲルに招き入れられ、嗅ぎタバコ(客人に嗅がせ、友好を示す習慣とのこと)、シミーンアルヒ(ヨーグルトの蒸留酒)、ヨーグルト等のもてなしを受けた。


  5. 4日目の午前中は、ウランバートル市内観光にあてられ、ザイサン・トルゴイ(ウランバートル市を一望できる丘にある軍事的モニュメント)、ガンダン寺(チベット仏教寺院)、自然史博物館(モンゴルは恐竜王国で、タルボサウルスの骨格標本は、圧巻。)、メルクリ市場(お肉が塊で売られていたり、モンゴルの台所事情を垣間見られる。)等をまわった。

    午後には、モンゴル国立大学内にある名古屋大学日本法教育研究センターを訪問した。同センターは、2006年9月、文部科学省の支援により開設され、毎年、モンゴル国立大学法学部の新入生から20名を選抜して日本語及び日本法教育を5年間実施するというもので、同大学卒業後、成績優秀者2名程が名古屋大学大学院法学研究課修士課程に留学する予定という。現在、今年9月に進級した3年生までしか在学していないが、今後、卒業生は、弁護士・裁判官等の法曹となってモンゴルでの法整備を担うばかりでなく、政治・経済等様々な分野に進んで活躍し、日本との友好関係を発展させる人材になっていくことが期待される。誠に素晴らしい試みであり、大変感銘を受けた。日本法書籍の不足、文部科学省の支援打ち切りの恐れ等、問題は山積しているようであるが、本会として、今後、少しでもこのような素晴らしい試みに助力できたらと思った。

    夜は、今回のモンゴル旅行のメインイベントである弁護士会80周年記念パーティに出席した。同バーティは、エンフバヤル大統領閣下をはじめとする錚々たる顔ぶれが出席する盛大な式典であるにもかかわらず、本会会員には、主賓テーブルが用意され、最高裁判所長官、憲法裁判所長官、警察庁長官等の要人が私達のテーブルまで足を運ばれるという光栄に浴した。吹奏楽団による歓迎、仕掛け花火による開会セレモニー、大統領閣下の祝辞、通訳いわく日本で言うSMAP級(!)のポップス歌手やオペラ歌手によるショータイム、ワルツタイム、ディスコタイム等、パーティは盛況を極めた。このまま終わってしまうのではないかと心配し始めた頃、モンゴル弁護士会会長と本会会長代理である伊藤邦彦国際特別委員会委員長による両会友好協定調印式が目出度くとりおこなわれ、出席者から万雷の拍手を受けた。その後、伊藤委員長は各テーブルをアルヒ(ウオッカ)を乾杯して回り友好を更に深め、また、その余の会員はダンスを通して友好を深める等するうちに夜は更け、見事な大玉の打ち上げ花火により、盛大なパーティは終わりを告げた。


  6. 5日目は、モンゴル弁護士会による80周年を記念する郊外酒宴に招待された。会場の入口近くでは、甲冑姿の騎馬軍団がバスを出迎え、会場まで先導してくれた。会場には、大小様々なゲルが点在し、そのうちの一つで、スーテイ・ツァイ(乳茶)をいただいた。この日の目玉はなんといっても、ミニナーダム。ナーダムとは本来、夏の祝祭で、相撲・競馬・弓射の3種競技に国民が興じる。昼食後、モンゴルらしいゆったりとした時の流れの中で、3種競技や民族舞踊等が行われていく。夕刻より始まった宴では、屠られたばかりの羊料理が振舞われた。最高のもてなしとのことであるが、急いでいただき、宴の途中で席を辞し、深夜、ウランバートルを出発、帰国の途に着いた。


  7. 今回の訪問を通じて、国際交流は一朝一夕には成らないと痛感した。モンゴル弁護士会による大歓迎は、田邊会員、飯塚弁護士、調停人育成研修に関与された本会会員の方々等、モンゴルとの交流に尽くされた方達のお陰である。そして、今後も、一歩一歩、交流を重ねていくことが大切ではないだろうか。いつか、今回受けたモンゴルで受けた歓迎に対して返礼できる日が来ればと願っている。








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