何年か振りに刑事弁護人日記を書くことになった。さて、いつ以来のことかと思って、会報の頁を捲ってみた。平成15年10月号で、北條政郎現刑事弁護委員会委員長が第1回を書いており、それに続く第2回の刑事弁護人日記を私が書いていた。内容は「こんな事件をやっています」と題して、私がその月に関与した国選事件2件、私選事件4件の合計6件(その内、強盗殺人と殺人・詐欺の否認事件が各1件)を紹介していた。
刑事弁護人日記がスタートした平成15年10月号会報の「刑事弁護人日記連載開始にあたって」と題するリード記事を見ると、刑事弁護人日記は、それまで続いていた「当番弁護士日記」を50回の連載で区切りとして、当番弁護に限らず、刑事弁護全体をテーマとして、衣替えをすることになった、とある。
興味が湧いてきたので会報の当番弁護士日記も遡ってみた。平成3年12月当番弁護士日記と題して、鈴木雅雄会員が第1回目を書いている。(なお、当会は同年4月当番弁護士制度をスタートさせている。)
この記事には、新連載とも第1回目とも記載がない。このことから、当初は連載の予定ではなかったようにも思われるが、その翌月号には早くも「連載」と付され当番弁護士日記が掲載されている。その後当番弁護士日記は50回続いたことになる。その中に2回(第15回、第31回)私の当番弁護士日記があった。
さて、本題である。今の私には5年前の刑事弁護の賑わいはない。年に8件程、私選弁護事件と国選弁護事件をほぼ同数受任しているといったところである。そんな私の刑事弁護人日記である。
1件目。昨年11月、M弁護士の紹介で、受任に至った事件である。公的な立場にあった被告人が、その立場を利用して女性にわいせつな行為をしたとして準強制わいせつ罪で逮捕された事件であった。事件の内容からマスコミの関心は強く、また当然のことながら被害女性の被害感情も強く、弁護が難しい事件であった。
公判において、被害者から「弁護人の訪問により、心身に影響を受けた。」との意見陳述がなされた。この種の事件における被害者への謝罪方法や示談方法の難しさを感じさせた事件であった。今後、被害者に対する謝罪や示談の方法は、被害者の心身の状態により配慮して慎重に行う必要があると痛感させられた。
なお、判決は、懲役1年6月、4年間の執行猶予であった。
2件目。同じ頃、今度はS会員の紹介で、受任に至った事件である。30代後半の会社員が、女子学生に対して、地下鉄の中で痴漢行為をしたとして強制わいせつ罪で逮捕された事件であった。被疑者は、容疑を認めており、如何に早く示談を進めるかが弁護の中心課題であった。
被疑者には、4歳の女の子がいた。被疑者の妻は、「子どもには、パパは出張でしばらく家に帰れないと言ってある。会社との関係もあり1日も早く戻って来るようにして欲しい。」と我々弁護人に懇願した。
幸い、被害者とその両親は、寛大な態度で弁護人に接してくれた。そのため、早い段階において示談が成立し、また告訴も取り下げてくれたので、起訴に至ることなく被疑者は釈放された。
その後、夫婦で御礼の挨拶に来られた。幼い娘さんが、パパの姿を見て喜んだと話す妻の目に涙が溢れていた。「こんな良い奥さんに二度と辛い思いをさせることのないように。」と強く言い聞かせて元被疑者と別れた。
3件目。これも、公的な立場にあった被疑者が、児童買春をしたという事件であった。私が、本年4月、当番弁護士として、修習生と一緒に接見に行き受任するに至った事案であった。
夫婦関係が悪化しており、そのストレスが児童買春行為をするに至った一因になったと思われた。このような事情から上記事件と異なり妻の協力を得ることは困難であった。母親の助力も得ることができなかったが、幸い親戚で被告人の力になってくれる人が現れたので、何とか実のある弁護が可能となった。
追起訴予定とのことであったので、追起訴未了の段階における保釈は難しいのではないかと思ったが、近時の保釈事情を反映してか、本起訴から1週間程で保釈が認められた。
ところが、被告人が釈放されてからまる1日以上被告人と連絡が取れなくなってしまった。被告人にもしものことがあったら大変だと随分心配した。被告人が、母親の元に戻ったことを知った時は本当にほっとした。保釈もただ早く出せば良いと言う訳ではなく、被告人の心身の状態にも配慮する必要があると反省した。
なお、判決は、懲役1年、3年間の執行猶予であった。
これまで、わいせつ罪等の性犯罪の弁護をする機会は比較的少なかったが、何故かこの1年、性犯罪の弁護が続いた。被害者との示談を考えると気が重くなる類の事件である。
今年になって国選弁護事件を2件受任した。最近、特にここ1年程、国選弁護事件は、自分から働きかけないでいると受任担当日が過ぎて行くので、その流れに逆らわないようにしている。その結果、年間8件登録しているが今のところ受任事件は2件だけである。
最初の1件は、修習生用にと自らインターネットで受任した出入国管理及び難民認定法違反の事件であり、銀行法違反が追起訴としておまけに付いてきた。20代後半のインドネシア人のオーバーステイと合計5回金額140万円余りの不正送金の事案である。起訴されていない不正送金が470回余り、金額にして23億円余りあったので、執行猶予が付くものか不安であったが、判決は懲役3年、執行猶予5年、罰金100万円であった。ぎりぎり執行猶予が付された事案であった。
今年は、この1件でノルマ達成と思っていたところ、法テラスのWさんから、道路交通法違反と危険運転致傷の控訴事件を受任してくれるように依頼があった。Wさんの依頼では断り難いと思い、受任することにした。
今でもまだ控訴事件と外国人事件は、比較的敬遠される傾向にあるようだ。
原審判決は、懲役2年の実刑判決である。危険運転致傷に対しては、近時厳罰化の傾向が著しいとのことなので、原審判決を覆すのは難しいと思いながら、被告人の意見に沿って量刑不当の控訴趣意書を提出した。何とか被害者2名の内1名から嘆願書を書いて貰うことが出来た。公判はこれからである。