「ネットカフェ難民」という言葉、誰しも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかし、その貧困問題の実態をいったいどれだけの人が把握し、その深刻さを身近なものとして理解しているのでしょうか。「貧困」はいまや、遠いアフリカ諸国の問題だけではありません。この日本の社会においてもごく身近にある社会問題なのです。
- 1 開会の様子
シンポは去る9月13日、愛知大学車道校舎のコンベンションホールで行われました。開会10分以上も前からすでにコンベンションホールの大部分の座席が埋まり、開始後には簡易いすを用意しなければならないほど、最終的には参加者が300名を超える大盛況のシンポとなりました。予想以上の会場の熱気に、主催者側の会員として喜びを感じると同時に、これほど多くの方々がこのテーマに大きな関心を寄せていらっしゃることに、問題の深刻さも感じずにはいられませんでした。
- 2 基調講演「現代の貧困そしてネットカフェ難民〜取材の現場から〜」
中弁連理事長石坂俊雄氏、当会副会長の荻原典子会員より開会の挨拶として、シンポ開催の趣旨説明や現代の貧困の状況とその問題提起を受けた後、テレビジャーナリストの水島宏明氏が、基調講演を行いました。水島氏は冒頭に書いた「ネットカフェ難民」という言葉のまさに生みの親なのですが、最初にこの言葉の誕生秘話を語ってくださいました。
それは、水島氏が海外特派員時代に戦地で見た人々の心の持ちようと日雇い派遣で家のない暮らしをする人々のそれが全く同じであったことに由来します。彼らにとっても「明日何を食べるか、どこに住むか」という目先の食・住が最大の関心事。「これはまさに難民だ」と感じ、この言葉が生まれたそうです。
水島氏が作成したドキュメンタリーのハイライトを挟みながら、取材現場から感じたこと、考えたことを率直に語ってくださいました。「やる気のない人に今の日本社会は冷たい。しかし、何度も裏切られることが続けば、人間、気力がなくなってくる。家族、教育、仕事など、社会のあらゆる場面での排除が重なると、自分自身の排除、すなわち自暴自棄につながってしまうのだ。」という悪循環の構造を水島氏ならではの切り口で伝えてくださいました。
映像を交えつつ基調講演をする水島宏明氏
- 3 派遣労働者は訴える
次に、この問題のまさに当事者の方々から、その実情を生々しいエピソードとともに語って頂きました。
一人目は、ベトナムから来日した外国人研修生の方が、日本語で一生懸命にその実情を訴えました。希望を抱いて来日した研修生に対してふりかかる、制度の悪用による過酷な実態を知ることができました。二組目は日雇い派遣の仕事をされているご夫婦。人を人として扱わない日雇い派遣の問題点や、労働局、行政への改善提案までを自らの日々の験とともに語ってくださいました。最後は地元の大手企業で派遣社員として勤務する男性。正社員と比較して露骨なまでの冷遇があることを、具体的エピソードを添えて語って頂きました。
- 4 愛知労働局の施策について
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今度は行政の立場から、愛知労働局職業安定部部長白兼俊貴氏より、現在国及び愛知県が取り組んでいる主に若者を対象とした安定雇用確保のための支援策を紹介して頂きました。行政としては悪循環に巻き込まれた際、それをどう断ち切るかの切り方を提供していること、そのきっかけをつかんで個々が必要な情報にたどり着けるよう、施策を充実させていくことを明言されました。
- 5 パネルディスカッション
最後に、森弘典会員のコーディネートの下、この問題をこれからどう解決していくべきかという建設的な議論がなされました。パネリストは、北海学園大学大学院法学研究科長の小宮文人教授、日本労働組合総連合会愛知県連合会より服部証氏、名古屋ふれあいユニオンより酒井徹氏、そして水島氏と樽井直樹会員。まず、服部氏から日々の労働相談の実態、酒井氏から自らがホームレスになった体験、小宮氏からは諸外国の派遣法との比較をご説明頂きました。また、水島氏は近時社会的に注目された秋葉原事件にも触れ、犯人のネット上の書き込みと取材していた派遣労働者の若者のブログ内容が酷似していたことに驚いたことなど、各パネリストの方々から様々な意見を聴くことができました。そして、今後この問題に対しどうしていくべきかという解決策が議論され、主に出された意見は以下のとおりです。
- @ 法整備の必要性
現在の法制度下では裁判でも法律の限界がある。主に派遣法の見直しをし、派遣元及び派遣先にどんな義務があり、何が禁止されるべきか、派遣先にも労組の団交に応ずべき義務等を明確に規定する必要がある。特に、派遣先企業に対し、雇用責任を問えるような法律に整備する必要がある。
- A 労働者の権利教育の重要性
悪循環から抜け出せない人々には、労働法に関する知識が不足しているケースも多い。労組法、労契法を活用し、派遣であっても労働組合による権利実現の打開策があること等そもそもの権利教育も根本的な解決策の一つである。
- B セーフティネット構築の必要性
貧困が社会的問題となっていることを常識化し、生活保護制度のみでは解決できない社会の構造的な問題であるという現状を理解すべきである。その上で、現在の働き方の仕組みを変えていくこと。また、労基署、福祉事務所のみならず精神科等の医療機関等も互いに連携し、貧困に陥った人にとことんつきあえる総合的なネットワークを構築していく必要がある。
- 6 最後に
参加者から寄せられたアンケートには「大変リアルな内容」「充実していた」「目から鱗の話」といった満足の声が多く寄せられていました。今回のシンポで、現代日本社会の貧困問題の現状をより多くの人々に伝えることができたとともに、様々な立場の方々から多様な角度でこの問題に対する考えや今後向かうべき方向性などを聴くことができ、大変有意義な時間となりました。