会報「SOPHIA」 平成20年8月号より

私の夏休み
私の夏休み(とその課題)


   会 員 新 海   聡


実は私は、ホリディメイカーと呼ばれたい、と思っている。「ホリディ」のルールは、絶対にツアー旅行はしないこと、安いこと、それなりにディープであること、だ。ところが最近、妻から異論が出た。旅に臨む私の姿勢がオジサン化している、というのである。妻の言うオジサン化とは、現地での交渉をしない、現地の人と話をしない、バスやタクシーに乗るのも人(=妻)任せ、ということを言うらしい。いかん、そうかもしれん、と思い始めた矢先の今年の夏、私が休めるのは6月の下旬の1週間だけで妻とは休みがあわない、という千載一遇のチャンスが到来した。さあ、機内持ち込みできるバックパックだけで地球の果てまで旅をしようと意気込んだ時代に戻るぞ。行き先はやっぱインドかモロッコか。しかし、1週間は短すぎることに気づき、行き先をヨーロッパに。さらに、1眼レフのカメラと交換レンズを持って行くから、バックパックだけで行くのは無理だし、駅でトイレに行きたいときに荷物を盗まれないためにはどうしようか、とか、いろいろ細かいことが気になりだした。あれこれ考えた結果、スイスへ出かけることで落ち着いた。スイスアルプスなんぞ、依存体質の回復にはならん、と笑われそうであるが、6月下旬はアルプスのベストシーズンだ(と思っている)し、とりあえずハイキングでもして、メタボ対策を優先しよう、ということにして、できるだけ日本のツアーの人に出会わない村を選んでホテルを予約し、6月末の金曜日深夜の中部空港発のエミレーツ航空でドバイ経由チューリッヒに到着した。目的地に選んだのは、深い谷を隔ててユングフラウと正対する村、ミューレンである。

エミレーツ航空は午後1時過ぎにチューリッヒに着いたので、急行と登山列車を乗り継いで、明るいうちにミューレンの崖っぷちのホテルに到着した。この村では、ユングフラウ、メンヒ、アイガーといった著名な山々が惜しげもなく氷河をさらけ出しているのがどこからでも望まれる。そればかりか、西に続く4000メートル前後の○○ホルン、といった山々の北壁が谷を隔てて屏風のように村に対峙する、美しいというか、一種すごいところである。スイス通に言わせると、なかなか泊まることができない、あこがれの隠れ家、だそうである。ここで3泊。4泊目は標高2300メートルにあるミューレンという展望ポイントにある山岳ホテルに宿泊し、連日ハイキングに出かけて過ごした。期待通り、6月下旬の花はすごいし、今年は例年にまして天気も良い、とのことであったから、スイスの高カロリーの食事にもかかわらず、帰国後、体重は3キロくらいは減っていた。

で、依存体質の克服はどうなったか、であるが、これは何とも言えない。まず、スイスはどこに行っても日本人がいるのである。海外で日本人に会っても話をしないという人もいるが、私は、とりあえずこんにちは、というクチである。山で会うから、なお一層、挨拶しやすい。しかも、現地の人と話をしようとしても、私の英語は我流であるから、英語を母語としない心優しいスイスの人たちは、自分の英語力のなさが私の英語を理解できない原因だ、と思うらしく、話が続かないのである。とはいうものの、弁護士という衣を完全に脱いで個人に戻ることが休暇の醍醐味であることを改めて実感した、短いが芳醇な時間であった。






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