会報「SOPHIA」 平成20年8月号より

中高生のためのサマースクール
ティーン・コート(子ども裁判所)の醍醐味


   法教育特別委員会 委員
粕 田 陽 子


中学生:「…直接麻子さんに謝ること。それから、メイド喫茶で働くこと。以上です。わかりましたか。」

林友梨会員:「…はい。」

「ん?」「は…」主文を聞いて絶句する傍聴人(大人)たち。

してやったり。これぞティーン・コート(子ども裁判所)の醍醐味である。検察官、弁護人の打ち合わせ、冒頭陳述、本人尋問、最終弁論、裁判体の評議のいずれも極めてまじめに議論が交わされてきた。何がどうなると、友達のID、パスワードを無断使用してプロフを書き換えた少年にそのような主文を言い渡すことになるのか。

裁判体の説明によると、こうである。少年は家族とも、友人とも、コミュニケーションがとれていなかった。それ故、自分のボーイフレンドと親友の仲を疑った。そして、誰にも相談できず、一方的に思いこみを深め、仕返しをしようと思うところにまで達した。そうであるならば、人と積極的に話し、しかも相手の気持ちを思いやるアルバイトを経験すると良い。メイド喫茶といえば、ご主人様に積極的に話しかけ、その気持ちを推し量らなければならず(そういうものらしい)、彼女の処遇として最適である。

メイド喫茶の実態やその是非はともかくとして、なるほど理論立てて考えられ、しかも独創的な結末であった。少年の問題点を浮き彫りにできた検察官、弁護人の尋問も大変凛々しかった。

このように、子ども裁判所の成功は、どれだけ子どもたちが非行を犯した少年に興味を持ち、質問をしてくれるか、サポート弁護士がどれだけ子どもたちの自由な発想を邪魔せず、話しやすい雰囲気を醸し出すことができるか、ということに懸かっている。

もっとも、チームとしてそのための準備を重ねてきたかというと、会議はボケとツッコミの繰り返しに尽きてしまった。

今年、新たに取り入れたのは、子どもたちに事前に希望の役割を提出してもらうこと、弁護士徽章等を模した缶バッジを作成し、配布したことである。他に試みた「最優秀○○賞」は活発な議論ができた中で誰を選ぶのか評議する時間も余裕もなく(評議しても受賞者を絞れなかったであろう)、判決書を配布する準備もしたが、時間が押しに押して作成・配布はできなかった。

この企画自体が2時間で終了するというのは、午前・午後にそれぞれ子ども裁判所を実施していた時の名残であるとのことだが、少年との打ち合わせから判決言渡、講評まで行うのは、相当きつい。今後もこのタイムテーブルを維持するのか、あるいは事前情報の与え方を変えるか等々、検討の余地はある。

しかし、我々は丹念に準備すれば、ついつい自分たちが想定した結論に子どもをリードしようとしてしまう。悲しい大人のサガである。やはり、子ども裁判所の醍醐味を味わいたければ、いくら準備を重ねても、当日は「ケセラセラ〜」と鼻歌を歌っているくらいがちょうど良いと思うのである。






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