会報「SOPHIA」 平成20年8月号より

子どもの事件の現場から(74)
子どもの権利としての面会交流 

   名古屋ファミリー相談室(FPIC)正会員
澤 井 朝 子


子どもの権利条約は前文で「子どもはその人格の完全な、かつ調和の取れた発達のため家庭環境の下で、愛情及び理解ある雰囲気の中で成長すべきである」と子どもの家庭、父母の下での成長発達権を宣言し、第9条3項は「父母の一方または双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する」と謳い、面会交流が子どもの権利であることを明確にしている。当相談室では面会交流の合意はあるものの実施できないケースについて、父母を援助し、子どもにとって良い面会交流を実現することを目指している。

面会交流援助の申し込みを受け付けると監護親と子、非監護親双方に事前面接を行う。その際、連れ去り等の防止のためのスタッフの規制、介入には従うとの誓約をしてもらう。面会交流日には通常スタッフ2人、離婚がDVがらみのときは3人が立ち会う。

以下ケースを紹介する。

@A君3歳、父母はDVがらみの離婚。
事前面接で監護親母は「Aは一度も父の話をしない、父に関心は無いと思う」と面会交流など意味が無いと言わんばかりの口調で話したが、面会交流当日、A君は父がいる児童室に駆け込み、暫くするとはじけるような歓声が聞こえてきた。歓声を耳にして母は、A君が父について話題にしなかったのは、母の気持ちを思い遣ってのことで、自分と違って子は父と会いたかったようだと実感したようであった。
面会交流は以後も順調に行われ、その間、母は子が父についてしまうのではないか、日ごろ自分は躾、教育のため時に叱ったりするが、父は子と楽しい時間のみ共有し「いいとこ取り」をしているなどの不安や不満を持ったりしたが、スタッフの支えで、7回目には父母同席して次回期日を決めることができた。
AB君6歳、C君5歳、非監護親母。
年齢のわりに身体が大きく活発な兄弟。月1回の面会交流であるが、5回目からはFPIC近くの公園で実施。母もスポーツウーマンで3人で公園を走り回っている。
BD子ちゃん生後9ヶ月 父母はDVがらみの離婚。
児童室でスタッフが子をあやしているところに非監護親父が入室。子は時に泣いて父が困惑するがスタッフが援助して、割合穏やかに面会できている。この間母は隣室で婚姻中に父から受けた暴力による心身の痛み、苦しみを堰が切れたように話している。離婚をしたけれど母はこの痛みを認め受け止められる心のケアを経なければ離婚後の一歩を踏み出せないでいると思われる。
その他父と名乗らないことが面会の条件である非監護親とE君2歳の面会交流、兄弟の親権者が父母に分かれ非監護親父と長男5歳、非監護親母と長女7歳が別室でそれぞれ面会しているケースなど複雑多様である。スタッフは各場面を注意深く観察し、そこで起きた事柄、交わされた言葉を取り上げ解釈し教育的な配慮から助言して、父母が協力して子どものための面会交流を実現できるよう働きかけている。

上記の各ケースはそれぞれ今後どのように展開するのか、ケースによっては難しい場面も予想されるが、スタッフの勉強会等で研鑽しながら進めている。

スタッフは面会交流が円滑に行われ子どもが喜び、非監護親から時には涙を流して感謝され、監護親が自信を回復して元気に明るくなるのを見るととてもやり甲斐を感じる。同時にスタッフ自身も面会交流から多くを学べることはうれしいことである。






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