去る7月23日、千葉恵美子名古屋大学法科大学院教授(専攻:民法)をお迎えして愛弁ホールにて、当会法科大学院特別委員会の主催で「体験 ロースクール〜ロースクールではどんな授業をしているの〜」と銘うったシンポジウムが開催された。法科大学院の第1期修了生(既修者コースのみ)が新第60期としての司法修習を終えて6ヶ月以上が経過し、第2期修了生(未修者コースでは第1期)が新61期として実務修習中であるが、新司法試験の合格者の質の低下が指摘されている今、その当否を検証する前提として、法科大学院で実際に行われている授業の内容を会員の皆様に広報することが開催の目的である。
- 1.第1部−千葉教授による模擬授業
2部構成の本シンポの目玉は、第1部の千葉教授による模擬授業である。千葉教授が名古屋大学法科大学院の3年次前期で実際に展開されている民法総合演習の授業を再現していただくというもの。当会からは、前田義博、纐纈和義、小関敏光、石川恭久、金井正成、柳瀬陽子、吉野彩子、鈴木智洋、山・拓哉、村松由紀子の各会員と小生の合計11名が受講生として参加し、新61期修習生や法科大学院第3期修了生を含めて総勢15名の受講生である。受講生には事前に事例が配布されて予習をした上で授業に臨む手筈であったが、題材の事例は、物上保証人の求償権、債権譲渡、代物弁済及び詐害行為取消権等が絡む複雑な内容で分量もA4版用紙2枚強に及んでおり、会員受講生の顔色も冴えない中で模擬授業は開始された。売買契約や代物弁済の要件事実、遅延損害金の根拠条文、本事例において解除権を行使しない理由、委託を受けた物上保証人の事前求償権の存否、契約条項の解釈は事実問題か法律問題か等の千葉教授による最高裁判例まで視野に入れた矢継ぎ早の質問と受講生の回答が続き、所謂ソクラテスメソッドの真髄が展開される中で、最後には会員受講生も千葉教授との議論を積極的に展開するまでに至り、現役実務家の面目を保った次第である。
- 2.第2部−意見交換
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模擬授業の後の意見交換では、最初に千葉教授から今回の模擬授業の目的は、(1)訴訟当事者の代理人として如何なる請求を構築するか、(2)訴訟手続の中で誰が如何なる事実(請求原因、抗弁及び再抗弁等)を主張するか、(3)裁判官として当事者の主張を整理した上で如何なる理由付けで如何なる結論を導くか、の3点にあることが説明された((2)に関しては、詐害行為の概念について相関関係説を採った場合の要件事実の変容も問題となるそうである)。会員受講生からは、ソクラテスメソッドによって自分の理解が不充分な点が浮き彫りになった等の千葉教授の授業を絶賛する内容の意見が異口同音に語られた。千葉教授の話では、少なくとも名古屋大学法科大学院では、「考える力」の滋養を目的としており、そのために1年次では制度趣旨や要件及び効果等の基礎知識の確実な習得と法情報調査への習熟を徹底して行っているが、従来の法学部が3年間で行う内容を未修者に対して1年間で実施しなければならないので、予習の中で自分が判らない点は何かをはっきりとさせた上で、授業ではその点を充分に理解させることを目標としているとのことである。
法科大学院で実際に展開されている授業の質の高さを実感できたシンポであり、個人的には、こうした授業を経て来た新司法試験の合格者の質は相当なものだと思われた。当会としても、今後の法曹養成の中核を担われる法科大学院に対して如何なる協力をなし得るかを真剣に検討する必要があると思われる。