会報「SOPHIA」 平成20年06月号より


赤ちゃんポストと児童相談所?


会 員 神 谷 明 文
1 運用開始から満1年

熊本市の慈恵病院が「こうのとりのゆりかご」の名称で運用している赤ちゃんポストが平成20年5月で満1年を迎えた。

このほど本年3月までの実績が明らかにされた。新聞各紙の報道によれば、託されたのは17人(男児13人、女児4人)、うち生後1ヶ月未満の新生児と見られるのは14人、生後1ヶ月から1年未満と見られるのは2人、1歳以上の幼児が1人であった。判明している中では熊本県内からの受け入れはなかったという。九州3人、中国2人、中部2人、関東2人、不明8人と発表されている。

運用開始当初、数時間後に3歳前後の男児が置かれたことで話題となったが、その後もほぼ毎月置かれたという。

2 赤ちゃんポストと児童相談所

厚労省は、懸念を示しながらも、医療法、児童福祉法、刑法などに触れない旨の見解を出している。その際、熊本市に対し「ポスト近くに児童相談所や保健センターへの相談を促す掲示をすること」「赤ちゃんを預かったら必ず児童相談所へ通告する」などの指導を病院に対して行うようにとの要望を付していることはあまり知られていない。

私の周囲の人に、赤ちゃんポストで受け入れた後、赤ちゃんはどうなるか?と問うたところ、「病院が育てているんじゃないの」とか「病院の施設に入れているのかなあ〜」などという答えが多かった。

正解は、病院から直ちに児童相談所(以下「児相」)に連絡、児相が児童福祉法にもとづき要保護児童として保護する、具体的には主に乳児院に入所させる措置をとる。原則3歳まで乳児院、その後は児童養護施設に入所する措置がとられる。

簡単に言うと赤ちゃんポストは窓口だけで、その後の生育過程の面倒は全て児相がみていたのである。新聞によれば出身地が判明した赤ちゃんは「それぞれ出身地の児童相談所に保護された」と書いてある。とすると出身地不明の8名は、熊本県の児相が担当して措置しているのだろう。現場を知る者としては、急に児相の仕事が増えて大変だ、担当者は足りているか、乳児院にキャパがあるのかしらと心配してしまう。

3 児童相談所の取り組み

虐待問題の増加により、愛知県では乳児院はいつも定員いっぱいの状態である。他県の乳児院で預かって貰うこともある。そのような事情を背景に、愛知県では児相により「新生児里親委託」が行われている。法的な養子縁組をする場合と養育里親の場合がある。

産んでも育てられないという不安を持って児相を訪れる出産を控えた女性が相当数ある。そのような場合、児相は生活保護の受給や母子生活支援センターへの入所を一緒に検討する。それにより子どもを手放すことを再考する人もいる。どうしても育てられないという人には、「あなたの代わりとなる里親がいます。あなたの出産を心待ちにしています。」と伝えると多くの人は出産に対し前向きになってくれるという。また、大人になった子どもを想定して手紙を書いて貰い、手放す辛い事情と子どもの幸せを願って貰う。子どもの将来にとって出自が分かっていることは何をするにしても大きなメリットがある。

赤ちゃんポストに行く前に、児相に相談してくれたら親にも子どもにも良い事が多いのにと残念でならない。子どもを手放すなら、最低限の親の責任として、出自を明らかにして児相に預けることを考えて欲しい。ただ、センセーショナルな赤ちゃんポストに比べると、確かに児相活動の広報は不足していた。弁護士として子どもの事件に関わる会員諸氏は是非協力して欲しい。







行事案内とおしらせ 意見表明