会報「SOPHIA」 平成20年06月号より

生物多様性条約(CBD)
第9回締約国会議(COP9)に 参加してきました。


公害対策・環境保全委員会 委員 吉 江 仁 子
1 はじめに

2010年に、名古屋で、生物多様性条約の第10回締約国会議(Conference of the Parties、以下「COP」と言います)が開催されます。
生物多様性条約(Convention on Biological Diversity については、下記ホームページをご参照ください。

>環境省 http://www.biodic.go.jp/cbd.html
>外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/bio.html

2010年は、COP6(2002年)で採択された「2010年目標」(2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させるという目標)の目標年であると共に、「国連生物多様性年」でもあり、CBDにとって、COP10が、大きな節目となることは間違いありません。

世界191カ国と欧州共同体が締約している、世界で最も権威のある条約の1つであるCBDのそのような節目の会議が、当地で開催されるとあっては、当会公害対策・環境保全委員会としても、拱手傍観している訳にもいかないでしょう。しかし、一体、何ができるのか?

ということで、まずは、COP9を体験することから始めることとなり、不肖、私めが去る5月18日(日)から同月30日(金)まで、ドイツ(ボン)で開催されていたCBD COP9にオブザーバーとして参加してきました。

2 CBD COP9の議題

COP9には、事前に、39の議題が用意されました。その中で、特に重要な議題とされたのは、「農業生物の多様性」「森林生物の多様性」「各国の生物多様性保全国家戦略の進捗状況および2010年目標の達成状況」「資金供給システム」などのテーマでした。また、これまでのCOPの決議の進捗状況を総括するために、「地球温暖化による気候変動が生物多様性に及ぼす影響」「自然保護地域の指定」「在来の生態系を脅かす侵略的な移入種の問題」「生物多様性保全のための技術の移転と各国の協力」「環境アセス」なども、具体的な問題として議論されました。

3 各国の関心の高かったテーマについて
  1. 「農業生物の多様性」の問題

    これは、「現在、穀物価格が高騰し、世界の食糧備蓄が歴史的に低いレベルとなって、国際社会は、近代史上、最も深刻な食糧危機に直面しているが、自然のサポートシステムに支えられた穀物・家畜等の農業の生物学的多様性の回復こそが、この食糧問題に対する最善の長期的解決策である」という問題です。

    この議題の中で、特に日本にとって関心が高かったのは、バイオ燃料に関し、国際的ルールが必要であるという議論です。

    その背景には、トウモロコシ等がバイオ燃料の原料として注目されて投機の対象とされ、価格が高騰してそれを必要とする人の口に入らない問題やトウモロコシ等を栽培する畑を開墾するためにアマゾンの森林が焼き払われる現状等があり、バイオ燃料に関する国際的ルールは、緊急課題として認識されました。

  2. 「自然保護地域の指定」の問題

    陸域については、2009年中に候補地を挙げきって2010年に指定し、海域については2011年までに候補地を挙げきって2012年に指定するというロードマップが確認されました。

    しかし、途上国側では保護地域に指定されると開発が出来ない、あるいは、保護する人的物的資源を持たない等の問題があり、具体的な指定作業には、まだまだ困難が伴いそうです。

    この資金の問題に関連して、COP9のホスト国であるドイツから、「ライフウェブ(生命網)イニシアチブ」が提案されました。これは、いわば、web上のお見合いシステムで、途上国側が保護したい地域についてweb上でプレゼンをし、それを見た先進国ないし企業等が調査の上、当該地域の保全のための人的物的援助を申し出るという構想で、このシステムの維持には、CO2排出権取引によって得られた資金が当てられる予定です。

    この提案は、参加各国の熱烈な支持を得、発表されてからCOP9が閉会するまでの2日足らずの間に、すでに60の締約国が参加を表明したと発表されていました。

  3. 「遺伝資源へのアクセス及びその利用による利益の公正かつ衡平な分配
    (Access and Benefit Sharing、以下「ABS」と言います)」に関するルールづくりの問題

    これは、遺伝資源が人類の共有財産であることを前提に、他国による遺伝資源へのアクセスをある程度保証しつつ、遺伝資源の利用による利益が、当該遺伝資源の原産国に分配されるための、国際的枠組み作りの問題です。

    これは、例えば、ある地域の固有種である植物の遺伝資源からある病気の特効薬が開発されたが、そのために、開発国がその植物の株を根こそぎ持ち去って、当該地域ではその植物が絶滅して利用できなくなり、かつ、開発された薬が高価過ぎるために、その薬も利用できない、というようなことがないようにしようということです。

    これに関しては、COP6(2002年)において、遺伝資源利用時の原産国への連絡と利益の分配に関する指針である「ボン・ガイドライン」が示されています。

    しかし、これは法的拘束力を持たないものであるために、ボン・ガイドラインに違反して遺伝資源が開発されたときに原産国の利益を守ることが出来ません。

    このABSに関しては、2010年までに国際的な枠組みを作ることになっているのですが、それに法的拘束力を持たせるか否かで、それに否定的な日本、カナダ、ブラジルとそれ以外の国々の間に激しい対立があり、それ以上議論が進まないという感じでした。

4 COP10に向けて
  1. COP10では、上記3テーマは、引き続き激しい議論が展開されるでしょう。また、上記では紹介できませんでしたが、生物多様性保全に関する新しい評価基準(GMO3)の策定も2010年の課題とされており、これも重要なテーマとなるでしょう。
  2. 日本では、COP9開催中であった5月28日、生物多様性の確保を目的とする生物多様性基本法が成立し、6月6日に施行されました。同法では、生物の多様性に影響を与える恐れのある事業では、これまでの事業着手直前段階での事業アセスではなく、計画の立案段階からその影響の調査や予測、評価する予防的な環境アセスの実施を求めています。また、同法の内容を受けて、「種の保存法」等も改正の動きがあります。今後は、私たちが取り組んでいる環境訴訟も、これまでとは違った展開を見せることが可能になるでしょう。
  3. COP9では、ホスト国ドイツを初め各国のNGOが、締約国代表者達の議論をフォローするのではなく、むしろ、直接的な働きかけを行ってリードするような関わり方をしていました。そして、彼らは、よく学習・研究もし、よく動き、NGO同士の連携もよく取れていました。
  4. COP10に向けて私たちは、これまで以上に国内県内の環境訴訟に取り組みつつ、少し視野を広げて、COP10で議論が予定される国際的枠組みについて、その法的論点を整理し、また、国際的な、あるいは、国内のNGOとも問題意識を交流して、ホスト国のNGO集団の一員として、実力を付け、役割を果たしたいと思います。





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