会報「SOPHIA」 平成20年05月号より

弁護士広告の問題点-東京の場合
〜東京弁護士会 弁護士 宇都宮健児〜


1 多重債務者を食い物にする提携弁護士の存在

多重債務者のクレサラ事件の処理に関し、整理屋や紹介屋と提携するいわゆる提携弁護士は、東京の三弁護士会所属の弁護士を中心に100人以上は存在するといわれている。2000年には7人の提携弁護士が弁護士法違反(非弁護士との提携)で逮捕されたが、提携弁護士はいまだ根絶されておらず、最近では、東京以外の弁護士会にも提携弁護士が広がる傾向にある。2008年2月には大阪弁護士会の弁護士2人が弁護士法違反(非弁護士との提携)で逮捕されている。

提携弁護士の事務所には、通常整理屋が入り込んでおり、紹介屋などから紹介を受けた多重債務者のクレサラ事件は整理屋が中心となって処理している。このため、提携弁護士の事務所では、提携弁護士はほとんど多重債務者と面談しないか面談するとしてもほんの4〜5分程度である。提携弁護士の事務所では、事務所経営の主導権も整理屋が握っていることが多く、提携弁護士には整理屋から顧問料名目で名義貸料(月額50〜300万円位が相場といわれている)が支払われている。

提携弁護士の事務所では、平均して年間1000人近くの多重債務者のクレサラ事件を取り扱っている。提携弁護士の多くは東京に集中しているのであるが、提携弁護士の事務所に債務整理を依頼している多重債務者の大半は東京都民以外の多重債務者であり、北海道から九州沖縄まで日本全国に及んでいる。

提携弁護士の事務所では、大量のクレサラ事件を取り扱っているため多くの事務員を雇っており、多いところでは一つの提携弁護士の事務所で100人以上の事務員を雇っている事務所も出現してきている。

2 弁護士業務広告解禁により提携弁護士による被害が拡大

日本弁護士連合会が、2000年10月1日より弁護士業務広告を原則解禁(自由化)したため、このところ提携弁護士の広告が激増している。

2002年7月4日に東京弁護士会より非弁提携(懲戒事由は弁護士業務広告解禁前の紹介屋提携である)を理由として退会命令の懲戒処分を受けたK弁護士は、アルバイトを含めると100人近くの事務員を雇い約7000人もの多重債務者のクレサラ事件を取り扱っていたのであるが、多重債務者からの預り金のうち約5億5000万円の返還が不能となり、2003年3月31日に東京地方裁判所より破産宣告を受けている。

このK弁護士は、弁護士業務広告解禁後、JR、私鉄、地下鉄、都バス、日刊スポーツ、毎日新聞、週刊実話、週刊大衆、週刊漫画、インターネットなどで大量の弁護士広告を行って多重債務者を集めていた。

現在、首都圏のJRや私鉄、地下鉄、インターネット、新聞の折込広告、スポーツ新聞、夕刊紙、週刊誌などに出されている弁護士広告の大半は、「借金苦解決」「一人で悩まず今すぐ相談を」「サラ金・クレジットの債務整理やります」などと債務整理を強調するものとなっている。また、東京の弁護士が地方紙の折込広告などに広告を出すケースも目立ってきている。これらの広告の大半が提携弁護士によってなされている可能性が高い。

最近、クレサラ事件の提携弁護士であった弁護士が、債務整理と同時に先物取引事件の業務広告を出すケースが少し目立つようになってきているが、多重債務整理事件や先物取引事件以外の借地借家、離婚、相続などの一般民事事件の弁護士業務広告や刑事事件の弁護士業務広告はほとんど見受けられないのが実情である。

なお、司法書士法が改正され、2003年4月1日より司法書士が簡易裁判所における訴訟代理権を取得し任意整理を行うことも可能となったことや、このような司法書士(認定司法書士)が多重債務者からクレサラ事件の依頼を受け介入通知を出すと貸金業法の取立規制により貸金業者の請求や取立てが止まることから、整理屋や紹介屋と提携する提携司法書士が急増してきており、提携司法書士の広告も急増してきている。

3 提携弁護士の懲戒請求が困難になってきている

弁護士業務広告が解禁される前は、多重債務者を取り込むのは主に整理屋・紹介屋グループの役割であった。これらの業者が新聞の折込広告、電話ボックスのチラシ、スポーツ新聞、夕刊紙、雑誌、インターネット等で「借入件数多い方でも即刻融資」「低利切替一本化」などと金融業の広告を出したり、あるいはNPO法人の認証を取得して「借金のことで一人で悩んでいませんか」などと宣伝して多重債務者を集め、提携弁護士の事務所を紹介していた。このため、このような広告を出している整理屋・紹介屋が紹介する弁護士は提携弁護士だと容易に判断することができたし、提携弁護士の懲戒請求も比較的容易だった。

しかしながら、2000年10月1日の弁護士広告原則解禁後は、整理屋グループの多くは、提携弁護士の業務広告を出して多重債務者を集めるようになっている。提携弁護士の業務広告を見てクレサラ事件の依頼をしたというだけでは、提携弁護士の懲戒請求はできない。このため、提携弁護士の懲戒請求が極めて困難になってきており、整理屋・提携弁護士による多重債務者の被害がさらに拡大してきているのが現状である。

4 整理屋グループからの手紙

日弁連が弁護士業務広告を解禁する前年(1999年)の5月29日、整理屋グループから私の事務所に次のようなFAXが届いている。

「宇都宮健児先生へ

どうもこんにちわ。ぼくはあなたの大嫌いな『整理屋』の一味です。

これまでのお礼を言おうと思って手紙を出しました。

本当にあなたには苦労させられました。うちなんか赤字ですよ。赤字。以前なら考えられないことですよ。でもあなたのお陰で強くなりました。感謝してます。嫌味だけど。

でも恨んではいないですよ。あなたなりの正義感、使命感でやったことだろうから。そりゃ同業者の中には、あなたのことを相当恨んでいる者もいますよ。でもぼくは信念持った敵は嫌いじゃない。好敵手だと思っている。

そんなことより、一緒に祝ってもらいたいことがあるんです。『弁護士広告解禁』ですよ。やっと光が見えた。助かった。みんなホッとしてます。

これからは紹介屋なんか使わないで、自分たちで合法的に広告を打ちます。金都合してきて、月1千万分は広告打ちます。ダイレクト・メールもサラ金リスト買って、月3万件打ちます。『債務整理しないあなたはバカ』なんてやれば、月何百人も依頼者が集まりますよ!バリバリ稼ぎます。これで毎日銀座に飲みに行けます。

広告解禁はもう決まったことだから、いくらあなたでも手も足も出ない。こればかりはどうにもならない。いくら宇都宮健児でも、決まったことは引っ繰り返せないもんね。これまでの苦労が水の泡。お疲れさま〜

これからは邪魔されずにガンガン儲けます。鍛えていただいてありがとう〜       せいり たろう より


現在行われている弁護士広告の大半が、クレサラ事件の債務整理を謳う提携弁護士の広告である可能性が高いことを考えれば、日弁連による弁護士業務広告解禁措置の早急な見直しが求められていると言える。






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