会報「SOPHIA」 平成20年05月号より

「消費者のための行政新組織の創設を求める緊急集会!」開催される


消費者問題対策特別委員会委員 榊原 真実

1 雨の中、沢山の参加者が・・・

平成20年5月10日(土)午後1時半から、弁護士会5階ホールにおいて、「消費者のための行政新組織の創設を求める緊急集会!」が開催されました。

肌寒い雨の日でしたが、消費生活相談員や消費者被害防止のためのNPOメンバーの方など多くの参加がありました。

2 防ぐことができたかもしれない死亡事故

まずはじめに、「具体的な事件を通して考えるこれまでの消費者行政の問題点」として、大和都市管財事件、こんにゃくゼリー事件、パロマ事件、金融商品取引被害事件の例が、各事件の担当弁護士から報告されました。

たとえばこんにゃくゼリー事件では、1995年から1996年のわずか1年間に窒息による死亡例が8例も発生していたのに、再発防止に活かされず、その後も1999年から2007年までの間に乳幼児ら7人が死亡したそうです(日本における件数)。諸外国では、2001年ころには再発防止のため製造販売禁止措置、製品規格の設定を行ったそうですが、日本では、農水省が業界に対し警告表示の周知徹底を指導しただけだったそうです。

行政が消費者の保護を第一に考えていれば、このような対応にはならなかったはずです。2007年、学童保育のおやつで食べたこんにゃくゼリーがのどに詰まって死亡した7才の男の子の母親の、「こんな物の為に、こんな物の為に、大事に大事に育ててきた大切な息子の命が奪われてしまった」という手記は胸を打ちました。1995〜96年の事例後に適切な対応がなされていれば、奪われることのなかった命だと思うと、やりきれません。

また、たとえば、パロマ事件では、昭和60年から平成17年までの間にパロマ工業社製の半密閉式湯沸かし器により28件の中毒事故が発生し21人が死亡しています。誰も事業者に事故原因の究明に関する報告を求めず、所官省庁内での事故情報すら一元的に共有されず、メーカー・行政・警察の誰もが原因究明をおこなわず、消費者に対して注意喚起も行わない中、多くの若い命が失われてしまったのです。

3 消費者の救済の役割を明確に

日本女子大学家政学部准教授細川幸一氏より、「新しい時代に求められる消費者行政〜地方自治体の役割を中心に〜」として基調報告がなされました。これまでは、「権限はあるが理念を持たない主務官庁による規制行政と理念はあるが権限を持たない消費生活センターによる支援行政」であったが、これからはこれに加えて、協働行政・救済行政としての役割も果たすべきである、「仲裁」ではなく消費者を「救済」する役割を明確にすること、個別救済活動を取締まりに生かす仕組み作りが大切であること、そのためには相談体制の整備など地方自治体の果たすべき役割が大きいことを強調されました。

金融オンブズネット代表、消費者行政推進会議委員原早苗氏からは「消費者庁構想の動きと課題」として、消費者行政推進会議の現状報告がありました。福田首相は同会議にレジュメを自分で用意するなど、消費者庁の実現に向けてかなり力を入れているそうです。

4  相談員さんたちの待遇の改善を

その後、消費生活相談員らによるリレートークで、消費生活相談の現場からの問題提起がなされました。消費生活相談員の方々は消費者被害回復に日々奔走していらっしゃいますが、「わたしもワーキング・プア」の発言に代表されるように、その多くが1年契約の更新制など不安定な雇用契約で、待遇の面から続けられない方もいるそうです。蓄積した経験を発揮して頂けないのは消費者にとっても損失で、待遇の改善が望まれます。

5 おわりに

事例から分かるとおり、日本は「消費者保護後進国」です。考えてみれば、すべての国民が「消費者」であり、行政は国民のためにあるものなのですから、これまで「消費者保護」の視点を持った行政庁がなかったことは不思議なくらいです。

消費者庁の創設は決まっても、そもそもどの法律を移管すべきか等、問題は山積です。 また、入れ物だけ作っても、中の人の意識が変わらなければ結局意味のないものになるでしょう。

消費者にとって、頼れる組織となるよう、弁護士会も頑張る必要があると思いました。






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