会報「SOPHIA」 平成20年03月号より

企業シンポジウム
「内部通報制度および契約審査手続における企業と弁護士の協働」開催


弁護士業務推進センター 委員  宮 田 智 弘

企業シンポジウム
  1. 3月14日午後2時から名古屋銀行協会にて、企業シンポジウム「内部通報制度および契約審査手続における企業と弁護士の協働」が開催された。当日は、企業より63名、弁護士37名の出席をいただいた。


  2. 当日は、増田副会長の挨拶に引き続き、弁護士業務推進センター企業プロジェクトチーム(以下「企業PT」)内部通報班の野口葉子会員、平井朝会員、久野実会員より、内部通報制度の調査・研究報告がなされた。

    まず、内部通報制度を必要とする背景として、企業における不祥事を未然に防止するために情報を入手することが必要であること、内部通報制度が内部統制システムの重要な一内容であることが挙げられる旨の指摘がなされた。

    その後、公開会社に対して実施した内部通報制度に関するアンケート結果が報告された。同アンケートでは、公開会社の約8割が内部通報制度を設けているが、社外窓口を設置している企業は半数に満たず、通報件数が年間12件以内(1月に換算して1件以内)の企業が半数以上にのぼり、内部通報制度が十分に活用されていない実態が明らかとなった。この結果をふまえ、内部通報制度を活用するために、@通報者保護を図ること、A匿名通報に配慮すること、B外部窓口を活用することが重要であるとの指摘がなされた。

    内部通報制度の詳細については、先日会員BOXに配布された「内部通報制度Q&A」を参照されたい。


  3. 引き続き、三菱自動車工業株式会社CSR推進本部コンプライアンス部長兼企業倫理委員会事務局長である川内厚氏より、「内部通報の実態と今後の課題」と題する講演がなされた。

    三菱自動車工業株式会社では、社会から糾弾された2度のリコール隠し問題の反省から、社外からの信頼を得ることが重要であると考え、各種の制度設計をしていることが説明された。そして、日の目を浴びない職場で不祥事が発生しやすいという同社の経験から、人事面を含めて「人が動く体制」が重要であると説明された。

    同社では、内部通報制度につき、職制ラインとヘルプライン(弁護士窓口は後者)を設け内部通報制度の徹底を図っていることが説明された。内部通報制度により会社の自浄作用が働くことから、社員の意識改革を行っているとのことである(「通報すべき事実があるのを知りながら、これを通報しない社員は共犯者である」との指摘があった)。

    なお、匿名調査については、フィードバックをすることが困難であることから、調査を行っていることを社内にPRすることにより、間接的なフィードバックをしているという工夫が報告された。これらの点は内部通報制度に関して弁護士がアドバイスをする上で参考になると思われる。


  4. その後、休憩をはさんで企業PT契約審査班の石川恭久会員から、契約審査手続の調査・研究報告がなされた。

    同報告では、契約に規定することが有用である条項として免責条項、責任制限条項、損害賠償の予定に関する条項を例示し、契約締結上の過失が問題となった事案(東京地判平成10年12月21日)、フランチャイズ契約において損害賠償の予定が問題となった事案(神戸地判平成4年7月20日、東京地判平成6年1月12日)などを挙げて、主に企業担当者に向けて、契約審査手続の時点で紛争を想定した条項を検討することの重要性が説かれた。

    企業PT契約審査班の調査・研究成果は、「類型別 契約審査手続マニュアル」(新日本法規出版)にまとめられているので、ご一読いただきたい。


  5. 最後に、トヨタ自動車株式会社法務部長菅原章文氏、川内厚氏、石原真二会員、矢崎信也会員をパネリストに、山田尚武会員をコーディネーターとして、「企業と弁護士の協働」と題するパネルディスカッションが実施された。

    冒頭、菅原氏より、トヨタ自動車株式会社における内部通報制度の状況が報告された。同社では、匿名通報の際に通報者との連絡手段を確保するよう努めていること、調査を行う際には複数の部署を調査し、通報者が特定されないよう留意していることが報告された。また、弁護士には、調査に役立つ事実の聴き取り、通報者に対する納得のいく説明をすることを期待しているとのことであった。

    パネルディスカッションでは、契約審査手続に関する事項と内部通報制度に関する事項に分けて議論が進行した。

    契約審査手続に関しては、弁護士、企業担当者が契約を審査するにあたって必要となる考え方が示された。また、矢崎会員から、秘密保持契約の実効性確保のために、秘密漏えいが発生した場合の秘密漏えい事実の立証責任を秘密の被開示側に転換する規定を検討してはどうかとの意見が出された。

    近時指摘されるようになった「反社会的勢力排除条項」についても議論がおよび、石原会員から当該条項に基づく契約解除の困難性が指摘される一方、菅原氏からは、当該条項は海外からは理解されにくく、契約書に盛り込むという決断には至っていないとの実情が報告された。この点は、今後の検討課題といえよう。

    内部通報制度に関しては、「顧問弁護士が外部窓口になることの適否」、「匿名通報への対処」などについて議論がなされた。

    「顧問弁護士が外部窓口になることの適否」については、石原会員から、企業(特に中小企業)は、紛争の際には顧問弁護士を代理人にすることを想定しているのが一般的であるが、顧問弁護士が外部窓口として相談を受けた場合、代理人に就任することができるのであろうかという悩みが打ち明けられた。これに対し、矢崎会員から、顧問弁護士は通報者から見た場合会社側の立場の者と映るため、通報者に萎縮効果を与える可能性があること、匿名通報への対処として、「外部通報の窓口弁護士にのみ名前を伝える」という対処が考えられるが、顧問弁護士がこの方法をとっても信頼を得にくく、通報件数増加の効果が期待できないことから、顧問弁護士が外部窓口になることはできるかぎり避けるべきであるとの意見が出された。

    「匿名通報への対処」については、菅原氏、川内氏から、匿名通報についても積極的に対応するとの意見が出された。川内氏からは、「匿名通報を排除することは企業の自殺行為」という意見も出された。弁護士としても企業のこれらのニーズに応じ匿名通報に適切に対処する必要があると思われるが、弁護士が匿名通報について対処を誤ったとして懲戒相当の判断がなされた事案もあり、慎重な対応が求められるといえよう。


  6. シンポジウムには企業関係者から多数の出席をいただき、引き続き開催された交流会も盛況であった。企業から弁護士との交流を求める声も強く、今後も継続して同様の企画がなされることを期待したい。






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