第1部の裁判劇の後、岡村晴美会員を総合司会とし、毛利甚八さんと北條政郎会員による「裁判員裁判が成功するカギ」をテーマに対談が行われた。対談の中で、毛利甚八さんから、多数の提言がなされたが、その主要な点は、次のとおりである。
なぜ裁判員裁判が必要か:現在の刑事裁判が決して裁判官・検察官・弁護人(被告人)の間の正三角形になっていないことから、公平を図るためである(判検一体の排除)。裁判に市民の心を!裁判員には是非、裁判官の心の中をのぞいて欲しい。
裁判員裁判のメリット:でたらめの調書の効力が抑制される、マスメディアが作る犯人像との比較や、刑罰を科す悩み・評議の結果等を裁判員が持ち帰り、社会へ還元する必要がある。守秘義務の問題があるが、裁判員裁判を育てるのであれば、自由に発言できる土壌が必要である。
裁判員裁判の成熟化:現在の左陪席が部長級(裁判長)になる位のある程度の時間がかかること、小・中学校での法教育が必要であること、専門用語を市民の言葉に還元し分かりやすく表現する必要があることなど。
量刑の問題:事実認定自体は、被告人本人や、現実の証拠等を目の当たりにして、通常のバランス感覚を働かせれば、一般市民の方(裁判員)でも可能。これに対し、量刑の問題は、懲役1年と2年の差は不明で、裁判員はどうしていいか分らないはず。そこで、裁判員候補者に送られるハガキを切符としていつでも刑務所見学をできるようにすること等により、行刑(懲役の内容等)の基礎情報を裁判員に提供するべきである。
えん罪防止:取調べ状況の可視化が必要であり、可視化なしに裁判員裁判は機能しない。
証拠開示の必要:検察官が都合の悪い証拠を知っていながら隠すことがあり、えん罪につながっている。公判前整理手続を活用して、日弁連(弁護士)は、検察庁と激しくぶつかり合って証拠開示を充実させて欲しい。
最後のメッセージ:裁判官一人一人は意外といい人である。組織の中でいじめられるのが嫌で、被告人にあたっている部分がある。市民が裁判に参加して裁判官にメッセージを与え、裁判官をいい場所に連れて行って欲しい。また、裁判に行ったことがない人は、是非法廷傍聴に行って裁判所は怖くないところであることをまず実感して欲しい。
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裁判員になったら、読んで欲しいお勧めの参考図書:浜田寿美男著「自白の心理学」(岩波新書)、加賀乙彦著「死刑囚の記録」(中公新書)。また、日弁連監修・発行の毛利甚八さん原作の裁判員裁判のPRマンガ「裁判員になりました」参照。
北條会員からは、弁護士、弁護士会としての刑事裁判への取り組みの紹介が多数なされた後、最後に、裁判員制度を意義あるものとするために、市民の方は恐れずに勇気を持って参加して欲しい、誰でもできる、素直に意見を出して欲しい、などと期待が寄せられた。