会報「SOPHIA」 平成20年03月号より

刑事弁護人日記(54)
初めての否認事件


会 員 大 瀧   保

 2年前、弁護士になって半年経過した頃、初めて否認事件の国選弁護人に選任されました。未熟ながらも、自分なりに工夫をした案件ですので、ご報告させて頂きます。

1 そもそも否認か?

 事案は、時速50キロ制限の道路を46キロオーバーの時速96キロで走行したもので、被告人の主張は、時速70キロから80キロくらいしか出ていなかったというもの。当初は、被告人の主張を聞いても、そもそも否認であるかも不明である始末でした。そこで調べてみると、30キロ未満の速度超過については、反則金通告制度の手続きを経なければ、公訴提起ができないことが判明し、同手続き違反で公訴棄却を求めることにしました。

2 手探り状態の公判準備

 とは言っても、レーダースピードメータで、しっかり時速96キロの計測がされていたので、その正確性をどう争うかが一番の悩みの種でした。そこで、手当たり次第、文献、判決の調査をし、これも手当たり次第に、検察官の手元にありそうな証拠開示請求をして、スピードメータの説明書、整備記録等を入手し、検討した結果、@当該スピードメータの使用の際に、説明書に定められた作動確認を怠っている可能性があること、A取締状況を記載した実況見分調書と被告人が供述する走行経路を照らし合わせると、時速96キロで走行した場合、停止距離を計算すると、停止地点で停止できないことが判明し、その2点を中心に、スピードメータの計測結果を争う方針を立てました。

3 検察官立証にしつこく噛みつく

 スピードメータの計測結果が記載された交通原票を不同意にして当該速度取締を担当した警察官尋問を実施させたところ、当該取締の際に決められた作動確認をしていなかったこととその詳細が確認でき、また、スピードメータ製造元の技術者尋問でも、主尋問において決められた動作確認を怠ったしても当該取締の際の他の事情から正確性に問題がないと言い切られましたが、各作動確認の意味、違いを何度も質問し、何とか作動確認の懈怠があるので当該速度取締時に「スピードメータが正確に作動していたかは確認できていない」との一言を何とか引き出すことができました。長々と反対尋問をして少ない収穫ですが。

4 証拠が出せない弁護人立証

 弁護人立証として、被告人が当該取締直後に撮った取締現場の写真撮影報告書、当方作成の現場実況見分調書、レーダースピードメータの誤測定に関する文献等を請求しましたが、全て不同意とされ、何となく検察官立証との間での不公平感を感じざるを得ませんでした。そこで、司法試験や研修所での知識を総動員して、写真は証拠物、現場の図面は、被告人質問の際に、見取図に書き込ませて調書添付する方法で証拠化することにしました。受験生、修習生の頃は、まさかこんな知識が役立つとは思いもよりませんでした。

5 その結果…

 @作動確認の不備があること、A停止距離に矛盾があることが決め手となって、公訴棄却の判決を得ることができました。

手当たり次第にいろいろな手段を講じた結果、初めてにして主張が通ったまさにビギナーズラックの事案でしたが、諦めずにできる限りの手段を講じておくことが大切だと実感できた事件でした。






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