会報「SOPHIA」 平成19年12月号より

《人権賞》
中国残留邦人帰国者を長年に
わたり支援する神原義勝さんに決定


   人権賞小委員会
委員 石 黒 輝 之


<中国残留邦人帰国者を長年にわたり献身的に支援する神原義勝氏が人権賞受賞>

12月11日、常議員会において、平成19年度愛知県弁護士会人権賞の授賞式が行われた。

本年度の人権賞は、マスコミ関係者・大学教授らの外部委員5名、弁護士4名合計9名の選考委員による選考の結果、神原義勝氏(86歳・名古屋市南区在住)が受賞した。中国残留邦人帰国者の自立、生活に対する長年の地道で献身的な支援が高く評価されたものである。

授賞式は、神原氏だけでなく、神原氏から支援を受けた帰国者や神原氏の活動の協力者も多数参加され、厳粛ではあるが和やかな雰囲気のなか行われた。


<活動のきっかけは戦争に対する自責の念>

神原氏は、太平洋戦争の際、徴兵されて終戦まで中国で軍隊生活を送った。終戦後、中国への侵略戦争に参加したとの自責の念から、その償いをしたいと考えていたところ、昭和62年、厚生省(現・厚労省)が身元の判明しなかった中国残留邦人帰国者の身元引受人を募集していることを知り、すぐに応募して身元引受人となり、帰国者の支援に関わるようになった。

神原氏は、その後も身元の判明しなかった帰国者の身元引受人となったが、その他にも、神原氏の噂を聞きつけて遠方から頼ってきた帰国者らも支援するようになった。その結果、現在では、神原氏は、帰国者ら合計十数家族・百数十人を支援するようになっている。


<活動内容は帰国者らが日常生活で直面する全ての問題の支援>

神原氏は、帰国者らに対し、就職活動、住宅への入居、語学力向上のための日本語教室の設置・運営といった日常生活の根幹に関わる支援を始めとして、入管関連手続・生活保護申請手続・社会保険年金関係手続等の公的手続支援、子弟の教育関連手続支援、病気や出産時の付添・手続支援、地域住民との交流・苦情処理など、帰国者が日本での日常生活で直面する全ての問題について、約20年にわたって地道に献身的に支援してきた。

この神原氏の支援活動は、帰国者らに問題が生じて相談を受けたときに親身になって考え善処するといういわば受動的なものだけではなく、帰国者らに様々な問題が生じないようにするための積極的・予防的なもの、例えば帰国者の子弟が学校でいじめに合わないよう担任の先生と連絡を密にすることなども含むものである。

このような支援活動の結果、神原氏は、帰国者らから、「お父さん」「おじいさん」と呼ばれるほどの関係になっている。


<受賞理由の詳細>

神原氏は、これまで、多数の帰国者らに対し、法的支援の対象者・非対象者を問わず、帰国者らが日本での日常生活で直面する全ての問題を長年にわたって地道に行ってきた。神原氏は、身元引受人等の職も歴任したが、その活動は法制度上の枠を大きく超え、その活動の実態は無償であり、長年にわたって注がれた努力・献身は、誠に顕彰に値するものである。特に、帰国者の多くが居住する南区周辺の帰国者らにとって、神原氏の存在が必要かつ貴重であったことは想像に難くない。

すでに終戦から60年以上が経過した現在においても、二世以下の人たちの存在を視野におけば、帰国者の問題は今後も看過することはできない。神原氏の活動は、異なった文化の中で生活してきた者が、お互いの文化の相違を認め合って、寛大な心で接しあうことの重要性を私達にも訴えているものである。神原氏の活動については、人権賞を授与し、その内容を一層社会に広く知らせることは、価値があるものである。


<インタビュー>
−人権賞受賞おめでとうございます。

ありがとうございます。この賞は、日本語教室の講師の方など、周りの支えがあって戴けたものと思っています。私自身は、特別なことをしたとは思っていません。帰国者の苦労を思うと、大したことはしていません。

−神原さんは帰国者に対して様々な支援をされていますが、その中で最も大変なものは何ですか。

やはり就職活動です。帰国者は、日本語があまりできず、生活習慣が異なるといった就職に不利な問題を抱えていますので、就職はとても難しいです。雇い主には、帰国者という立場であることを理解して雇って頂ければと思っています。

−神原さんは、帰国者の日常生活全般にわたる支援活動をされており、
   その中には専門的な知識を要すると思われるものもありますが、
   このような知識はどのようにして得られたのですか。

身元引受人になる前に、公共職業安定所に約30年勤務し、民生委員・児童委員なども長年やりましたので、ある程度の知識はありました。この知識でわからないことは、役所に相談するなどして解決策を見つけています。

−最近はどのような活動をされていますか。

先日、ある帰国者から、呼び寄せ家族の日本名・通称名をつけてほしいと頼まれましたので、その帰国者の本名と関係のある、本人の性格に合った、いい名前をつけたいと思っています。今日も帰ってから、本などを見て名前をあれこれ考えたいと思っています。

また、会社を辞めた人がいるので、その人の就職活動を支援することになっています。

−帰国者らの支援を約20年にわたり行われていますが、このように長続きできるのはなぜですか。

私は、帰国者の支援の他にも、献体団体「不老会」の南区理事長など、多くのボランティアをやってきました。一般論として、ボランティアを長く続けるには、楽しんでやることが大事だと思います。

帰国者の支援については、帰国者から頼られることが生きがいのようになって長続きしたと思います。

−今後について教えてください。

これからも、帰国者が私を「お父さん」「おじいさん」と言って何かと訪ねて来ると思いますので、実子、実孫として関わっていきたいと思います。

−どうもありがどうございました。これからもどうかお元気に頑張ってください。





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