会報「SOPHIA」 平成19年12月号より

子どもの事件の現場から(66)
観護措置ではなく在宅で


   委員  犬 飼 敦 雄


中学3年生の3月にA君は、成人の共犯者Bとともに、偽造1万円札を本屋で使用したという通貨偽造行使の被疑事実で勾留され、私は、当番でA君と接見した。

重大な犯罪だなぁと思ったが、A君から詳しく話しを聞くといろいろな事情が出てきた。

A君は中2の夏休みから、不良グループと交友し、原付を盗むなどしていたが、10月に不良グループの中心人物であるBから殴る蹴るの暴行により怪我を負わされたために、11月からは不良グループを避け、中学へ行くようになった。しかし、1年以上経った中3の2月末に、偶然Bと出くわした。

すると、Bは、A君を半ば強引に車に乗せ、A君に通貨偽造行使の実行を命令した。A君としては、断るとBからまた暴行されるのではないかと恐れ、嫌々ながら本件犯行に及んだ。そして、本件犯行以外にも近い時間に前後4回同一犯行を試みたが、いずれも店員に見破られて失敗に終わっていた。

 

A君は失敗に終わり、逃走している間に、Bからも逃走し、帰宅した。しかし、翌日、BがA君宅まで来て、A君を強引に連れて行き、パチンコ店でスロットのコインを盗んでこいとA君に命令した。A君はこれ以上の犯罪はできないと意を決して、近くの交番に逃げ込み、自首した。

A君は、翌4月からの就職先が既に決まっており、観護措置が取られると、就職出来なくなる可能性があった。

両親については、A君が小2のときに離婚し、A君は父親と同居していたが、中3の夏頃に、母親と同居することになった。しかし、母親は夜スナックで働いているため、A君とはすれ違いの生活をしていた。

私は、この件が初めての少年事件であり、本件で観護措置が取られるのかどうか分からなかったが、本件が従属的な犯行であることや自首していることなども考慮して、家庭環境には不安があったが、なんとかA君の観護措置が取られず、4月から就職できるようにしてあげたいと思った。

そこで私は、被疑者段階において、本屋の店長と示談して嘆願書も作成してもらい、就職先の社長に事情を説明して誓約書を作成してもらい、両親からも今後の監督について誓約書を書いてもらい、何度かA君と接見し、今回のこと、これまでのこと、これからのことについて話し合った。

A君は、初めての身柄拘束で、夜も寝られず、朝食も食べられない状態で、取調べではお腹が痛くなり、私や母親の接見において泣いてしまうなど、精神的・肉体的につらそうだった。

私は、家裁送致日に、観護措置を取らないよう求める意見書を裁判所に提出するとともに、裁判官と面談し、A君の事情を訴え、なんとか在宅で審判を迎えることになった。私もA君も大いに喜んだ。

審判において、S裁判官は、A君の前で、自分の財布から紙幣を取り出し、おもむろに破った上で、A君に通貨制度についてわかりやすく説明した。私もA君に通貨偽造罪が重大な犯罪であることは説明してきたつもりだったが、S裁判官の説明でA君はより理解を深められた。

あれから2年以上が経過したが、あるアンケートで久しぶりに連絡をとったところ、いまでも仕事を続けており、元気にやっているとのことで、私はその言葉で元気をもらった。






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