会報「SOPHIA」 平成19年10月号より

少年事件付添人シンポジウム
「だから、君に付き添いたい。」開催


   少年付添人シンポジウムワーキンググループ
朝 倉 寿 宜


1 本年9月29日(土)午後1〜4時、中区役所ホールにて、少年事件付添人シンポジウム「だから、君に付き添いたい。」が開催された。

 このシンポジウムは、平成21年度に被疑者国選弁護制度の拡大が予定されているにもかかわらず、これに対応した少年事件付添人の制度的拡充が予定されていないため、「被疑者段階では弁護人がついていたのに少年審判手続では付添人がいない」という極めて不合理な事態が頻発するおそれがあることを憂慮して企画された。一般の方々に少年事件付添人の実態を知ってもらい、付添人拡充の法整備につなげることを狙ったわけである。また、11月1日に浜松市にて開催される本年度の人権大会にて、少年事件付添人に関するシンポジウム「少年に付添い歩む。当番付添人制度の全国実施と全面的な国選付添人制度の実現へ向けて」が挙行されることから、そのプレシンポとしての位置づけも有している。

2 当日は、村上会長と熊田登与子会員(この日は名古屋市の子ども条例検討会委員長としての登場だった)の挨拶に引き続き、まず第1部として付添人活動紹介ビデオ「はじめまして、付添人弁護士です。〜少年事件付添人の活動〜」を上映した。

 このビデオは、ひったくり事件を起こした「村上健太」少年が逮捕されてから鑑別所での生活を経て審判に臨むまでの「神谷」弁護士(妙齢の女性!)の活動ぶりをドラマ仕立てで描いたもので、ひったくりという典型的な事件を題材に付添人弁護士の一般的な活動を紹介して、その役割を一般の方々に理解してもらうことを狙った。

 多額の予算を投入して(といっても格安にしていただいたのだが・・・)、プロの俳優やナレーターを起用し、専門の映像制作会社に依頼して制作されたこのビデオは、これまた外部委託により制作され当日配布された少年事件パンフレットとともに、完成度の高い作品と自負している。今後の法教育等でも大いに活用していただければ幸いである。

 なお、このビデオは、前記の人権大会シンポジウムでも上映される予定である。

3 第2部は、ジャーナリストの江川紹子さんをお招きしてのパネルディスカッションであった。江川さんには当会の多田元会員とともにパネラーとしてご出演いただき、実際に事件を起こした少年やその保護者のインタビュービデオを上映しつつ、これを受けたコーディネーターの榎本修会員・舟橋民江会員からの質問に交々お答えいただいた。

 江川さんからは、とても興味深いお話をしていただけた。否認事件等でない一般的な少年事件についてはあまり取材されたことがないようであるが、役割分担の発想から付添人の役割を論じられるあたりは、さすがのご見識であった。また、オウム事件を初めとする豊富な取材のご経験を踏まえた「話し手は聞き手を鏡にして自分自身を見つけだす」とのお話は、事情の聞き取りを重要な業務としている我々にとって、これに臨む姿勢を教えられた思いであった。

 一方、多田会員からも、豊富な経験に基づく貴重な話をいただけた。とある重大事案において、被害者の人となりに関する調書を淡々と読み聞かせて年少の少年に自らの罪の重さを自覚させたという事例の紹介は、我々にとっても、少年に反省を促す手法の一例として参考となるものであった。他方、参加者から寄せられたアンケートでも、多田会員による実例の紹介をもっと聞かせてほしかったとの声が多数寄せられ、少年事件の実像に対する一般の関心の高さがうかがえた。

 500名を収容できる会場にはやや空席が目立ち、事前の広報不足を痛感させられたが、来場者の半数以上からアンケートの回答をいただけ、内容も概ね好評であった。パネルディスカッションは休憩を挟んで2時間近く催されたにもかかわらず、来場者からは「江川さんや多田弁護士の話をもっと聞きたかった」とのご意見を多数頂いており、企画チームとしても嬉しい限りであった。

 付添人シンポワーキンググループ座長の川上明彦会員の挨拶にて、シンポジウムは成功裡に閉会した。

4 江川さんからは、調書の漏洩が問題となっている奈良県の事件に言及しつつ、少年事件に関する情報の一般への開示を求める旨のご発言もあった。情報の開示が少年の更生に悪影響を与えるおそれや、一度開示した情報は二度と回収できないことに鑑みれば情報の開示に躊躇を感じてしまうところではあるが、付添人活動への理解を深めてもらうには、少年事件や非行少年の実像についても理解してもらうことが必要でもあるし、情報の開示は犯罪被害者の切実な願いでもある。今後の重要な検討課題といえよう。

5 なお、シンポ開催に合わせて、当会の付添人活動に関する報告書を作成し、会員の皆様に配布させていただいた。豊富な書式集も添付されているので、是非ご一読・ご活用いただきたい。






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