会報「SOPHIA」 平成19年11月号より

子どもの事件の現場から(64)
捨てられる児童福祉?


   会 員  多 田  元


今年少年法の一部改正で、非行時14歳未満の触法少年の殺人罪等の重大事件につき、警察官が取調をしたうえ、児童相談所に送致し、児童相談所長は原則的に家庭裁判所に送致する規定が新設された。同時に少年院法の一部改正で初等少年院の対象が14歳以上であったのを概ね12歳以上(11歳も含むとの国会説明)を対象とすることとなった。この改正はもちろん児童福祉や少年院等保護処分の処遇機関の現場からの要求に応えたものではない。しかし、この法改正前に、岡崎市で発生したホームレス襲撃事件について、改正を先取りしたような扱いがあった。

事件は、13歳のS君が14歳の少年2名と28歳Kと共に橋の下で生活していた69歳女性を金品強取の目的で襲って鉄パイプ等で殴るなどの暴行により死亡させたという悲惨なものである。K青年と3人の中学生の奇妙な犯罪グループ。S君はK青年をK君と呼び、依存心と畏れが相半ばした気持ちで行動を共にしていたが、K青年自身がホームレス状態でS君の自宅に入り浸ってもいた。

S君は基本的に父母のネグレクト(養育放棄)状態で育ち、小学校5年から不登校で、家庭ではS君が小さい妹、弟の食事、洗濯、掃除などの世話をしていた。家庭でも学校でも地域でも温かく受け入れてくれる信頼できる大人に恵まれなかったS君にとってK青年は「誤った大人モデル」であったろう。

警察は共犯少年の供述からS君を早朝「補導」して取り調べ、同日強盗殺人触法事件として児童相談所へ送致した。児童相談所所長は、S少年の面接をまったくしないまま即日家裁に送致し、家裁は観護措置決定をして少年鑑別所に収容した。

本来なら児童相談所が一時保護の措置をとって児童福祉司が事情聴取したり、心理判定をするのと平行して警察の捜査(共犯者の捜査の一環でもある)が行われ、そのうえで児童相談所所長が家裁の審判に付するのが相当と判断したときに家裁に送致する。しかし、本件では児童相談所がトンネルになり、S君が少年鑑別所に収容されてから警察の本格的取調が開始され、家裁調査官の面接調査、少年鑑別所の技官の面接や心理テスト等と並行して行われた。これらの毎日入れ替わり立ち替わりの取調と夜は悪夢にさいなまれて眠れず、S君は疲れ果てていた。後にS君は、附添人の面接のときだけほっとできたと言う。しかも、警察官の取調は殺意について露骨な誘導をし、朝から夕方までの長時間の取調で合計70頁に及ぶ4通の供述調書を作成して、S君が疲れ切った夕方に4通をまとめて読み聞かせをするという杜撰なものだった。五月雨式に家裁に追送される供述調書をその都度批判する附添人意見書を提出した。その結果、家裁(合議体)は、客観的事実の経過と少年らの精神的未成熟さを考慮すると、殺意に関するS君らの自白調書は信用できないと判断し、殺意を認定しなかった。警察官の触法少年取調のあり方が批判された。

附添人としては、S君は家庭的な環境で育ち直しをする必要が大きいとの理由で児童福祉施設である児童自立支援施設送致を主張したが、家裁は4年以上の長期収容の処遇勧告付で初等少年院送致とした(S君は決定時は14歳)。抗告の結果、高裁は成長の可能性を考慮して期間を2年以上に短縮した。

親の面会が容易でなく、もと附添人が毎月面会に通っているが、鑑別の結果、小学1年程度の学力と判定されたS君は、定員を超える過剰収容の少年院の集団生活でもまれている。児童福祉による育ちの支援を捨てた大人達の貧しさを思わざるを得ない。






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