会報「SOPHIA」 平成19年8月号より

子どもの事件の現場から(62)
少年の親との関係


   会 員  橋 本 奈 奈


  1.  私が裁判所から付添人の依頼を受けたのは、今年の6月でした。少年は中学校を卒業したばかりの女の子で、中・高校生の間で流行っているらしい(私は知りませんでしたが…)オンラインゲームで、他人のID・パスワードを使用して不正アクセスを繰り返した、ということでした。

     しかし、一番の問題は、少年の身元引受先でした。少年の両親は彼女の幼い頃に離婚し、以降は父親のもとで兄や祖父母とともに暮らしていたのですが、父親は、以前から飲酒しては躾と称して常態的に少年に暴力をふるい、見かねた家族や近隣の住民が警察を呼んだり、少年自身が近くの交番に逃げ込むことも度々でした。少年は「家の中で父親の足音を聞くだけでも、また怒られるのかと落ち着かなかった」そうです。また、少年が中学生の頃は、父親の経営する飲食店にて深夜まで手伝わさせられており、児童相談所が介入したこともあったそうです。父親は兄や祖父母に対しても同様で、家族は誰も逆らえなかったということです。少年は家出を繰り返し、鑑別所に入るまでの数か月間も友人宅で世話になりながら、日払いのアルバイトで生活していました。


  2.  まず、施設等外部の受け入れ先を当たったところ、定員に達しているなどで入所は困難でした。また、少年は人間関係の形成が不得手であり、住み込みでの就業も無理であろうと思われました。

     そこで、難しいとは思いつつ、私は少年の母親に連絡を取ることにしました。

     少年の母親はすでに再婚していましたが、実の娘の実情を聞いて何とかしてあげたいと思い、父親の了承さえ得られれば引き取りたいとのことでした。少年自身も母親を慕っており、一緒に暮らしたいとのことでした。もっとも母親は離婚後、父親とは全く連絡を絶っており、直接連絡を取ることに躊躇しておりましたので、私から父親に話をすることになりました。


  3.  父親は裁判所からの再三の呼出にも応じなかったとのことでしたので、直接自宅を訪問しました。自宅内では、祖父母らが父親を怒らせないよう部屋の隅で息を潜めておりました。父親は、「自分が少年を何とかする。」、「少年には一層の罰を与えなければならない。」、「他人にとやかく言われたくない。」などと聞く耳を持たない状態で、さらには飲酒を始めてしまったため、2時間くらい話した後、一旦帰ることにしました。父親は、「他人に娘のことを決められた」ことに怒りを覚えたらしく、後日、酔って事務所に電話をかけてきて、怒りをぶつけておられました。

     このような状況でしたので、父親からの了承を得るのは難しいかなあ…、と半ば諦めかけていたのですが、最終的には、父親と会うことを躊躇していた母親が父親と直接会って説得し、少年を引き取ることの了承を得ることができました。審判では保護観察処分となり、少年は、母親のもとで暮らすことになりました。


  4.  今回、父親への対応が一番の問題でした。少年と出会ってわずか1か月の私が血の繋がった父親に対してどう接し、話したら良いのか、非常に悩みました。

     少年の親との関係については、今後の検討課題にしていきたいと思います。






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