会報「SOPHIA」 平成19年7月号より

外国人相談シリーズ
日本で離婚し、本国法上離婚出来ていない外国人の、
日本での再婚の可能性(婚姻要件と準拠法上の先決問題)


   人権擁護委員会 国際人権部会 委員  名 嶋 聰 郎


〔質問〕
私は、日本で暮らすペルー国籍の女性ですが、同じく日本で暮らしているブラジル国籍の男性と日本方式で協議離婚をしました。しかし、ペルー本国では未だ離婚できておらず、しかも、ペルーの離婚訴訟は、長い時間がかかるため、目処も立ちません。
一方、私は、日本で暮らす同じペルー国籍の男性と、私が離婚出来たら結婚をしようと誓い合っています。
外国人同士でも日本の役所に婚姻届を提出出来るそうですが、日本で離婚できていても本国では離婚できていない私の場合、日本で婚姻届は提出出来るのでしょうか。
〔回答〕
1 ペルー人女性の法律状態
離婚の方式については、法の適用に関する通則法(以下、通則法という。)第27条、25条、34条により、行為地法主義が採られており、貴女の、前婚の夫との離婚は、日本法上、有効です。しかし、ペルー共和国民法では、ペルー国法上、離婚するには、同国において裁判上離婚が確認されることが必要ですから(ペルー民法第349条、335条)、貴女は、本国法上は、離婚が成立していません。
一方、外国人が日本において婚姻届を行う場合、その婚姻要件は、各配偶者の本国法によるとされるため(通則法第25条)、従来の戸籍実務では、貴女が、本国の発行する婚姻要件具備証明を提出しない限り婚姻届は受理されませんでした。
2 問題の所在(準拠法上の先決問題)
しかし、準拠法の観点からこの問題を考察すると、「後婚の有効性とその前提として判断すべき前婚解消の有効性がともに問題となる場合」、前者を「本問題」、後者を「先決問題」といいますが、この先決問題について、いかなる法律を適用すべきか、すなわち、先決問題の準拠法如何こそ、この問題解決の基本的視点であるべきです。
3 最高裁平成12年判決(法廷地法説)と戸籍新先例(平成18年1月20日付け法務省民一第128号回答)
そして、この先決問題については、学説上、法廷地法説、本問題準拠法説、折衷説に分かれていましたが、見出しに掲示した最高裁判決(民集54巻1号1頁)は、渉外親子関係に関する事案において、法廷地法説を採用しており、この立場からすれば、先決問題である前婚に関して適用すべき準拠法は、「法廷地法である日本の準拠法」によるべきであることとなり、貴女の場合、異なる国籍の外国人同士の離婚で共通本国法がなく、常居地法である日本法が準拠法となります(法適用通則法第27条)。しかも、貴女は、日本法上は、有効な離婚が成立していますから(先決問題)、日本法上、再婚する場合(本問題)、婚姻要件は、具備していると解すべきこととなり、婚姻届は受理されるべきこととなります。
そして、このことが、初めて確認され、前述の従来の戸籍実務が改められた初めての先例となったのが、この項の見出しに掲げた先例(雑誌「戸籍」786号、平成18年5月号)であり、この先例以後、貴女のような婚姻届出は受理されることとなっています。





行事案内とおしらせ 意見表明