会報「SOPHIA」 平成19年6月号より

子どもの事件の現場から(61) 彼女の笑顔と大人たち

   会員  間 宮 静 香


彼女との出会いは、鑑別所でした。

年齢の割には大人っぽいけれど、ひまわりみたいな人なつっこい笑顔の彼女は、人見知りすることなく、私に話しかけてきました。

彼女は、幼い頃に両親が離婚し、当初は母親に引き取られましたが、適切な養育を受けることができず、父親の下に引き取られました。父親は、夜に仕事をしており、幼い頃から、彼女は夜を1人で過ごすことが多かったようです。

「パパが大好き」と、照れずに言う彼女は、そんな生活が寂しかったのでしょう。父親の再婚相手ともうまくいかず、家に帰らなくなってしまいました。

それがもとで、色々な事件に巻き込まれてしまった彼女でしたが、彼女の周りには、なぜか、いつも、彼女を助ける大人たちがたくさんいました。

近所の人は、彼女を娘のようにかわいがり、夜ごはんを食べさせてくれたり、親代わりに叱ったりしてくれていました。

以前通っていた中学校の先生は、彼女は転校したのに「今でも自分の生徒だから」と、鑑別所に足を運んだり、審判にかけつけてくれました。

私たち、少年審判にかかわる人間も、そうでした。みんな、彼女のひまわりのような笑顔に引き寄せられていたのかもしれません。

付添人の私と桐井弁護士、そして、調査官の悩みは、彼女の資質ではなく、環境でした。夜に父がいない家、うまくいかない義母のいる家に彼女を帰せるのか。転校先の中学校から拒否的な態度をとられていたため、学校に行かずにどうやって中学卒業までを過ごすか・・・。

私たちが出した結論は、中学卒業までを裁判所、弁護士、児童相談所で面倒をみるということでした。

月曜日は私の事務所、火曜日は児相、水曜日と金曜日は裁判所、木曜日は桐井弁護士の事務所が、彼女の「学校」になりました。私たちが家庭教師役となり、彼女は中学に通わずに、定時制高校を目指すことになりました。

中間審判では、審判に同席した大人全員が彼女のことを考え、同じ方向を向いていました。裁判官は、彼女が求めてやまない存在である父親に、彼女の手を握らせ、親子の絆を確認させ、彼女は号泣していました。

結局、彼女の試験観察には、何人の大人が関わったのでしょうか。児相では数人のケースワーカーが彼女の相手をしてくれましたし、裁判所では、メンタルフレンドの学生さんも勉強を教えてくれました。みんな、彼女の笑顔に引き寄せられたようでした。

定時制高校には行かないと言い出して、関係者一同集まったりしたこともありましたが、児相の「調理実習」で作ったクリスマスケーキを持ってきてくれたり、さぼることなく、裁判所、児相、法律事務所、と通い続け、無事に定時制高校に合格しました。合格発表の日、発表を見たその足で、飛び跳ねながら、事務所へ報告に来てくれたときの満面の笑みを、私は忘れることができません。

 

あれから、数ヶ月。彼女のひまわりのような笑顔が、いつまでも失われないこと、それが関わった大人たちの、心からの願いです。






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