会報「SOPHIA」 平成19年5月号より

5月25日 名古屋地裁 裁判員制度模擬裁判

裁判員制度実施本部 副本部長
川 上 敦 子

  1. 名古屋地裁において、憲法週間行事として、裁判員制度の模擬裁判が行われ、弁護人役で参加した。今回は、様々な候補者を想定して、裁判員を選任するための質問を行い、その質問場面(選任手続)をマスコミ等に公開するとともに、参加者を通じて裁判員制度への理解を広めることが目的のようだった。


  2. 裁判員選任手続
     事件ごとの裁判員候補者へは、6週間程度前に呼出状と質問票が送付され、辞退が認められない人は、裁判所に出頭し、選任手続を受けることになっている。
     今回、質問を受けた候補者役は7名、小さな会社で会社が始まって以来の大きなプロジェクトの納期が迫っているデザイナー、従前から取引先との打ち合わせの予定が入っている営業部長、自治会の清掃行事が入っている自治会長、認知症の義父の世話をしている主婦等、様々な人を想定した質問がされた。
     裁判長から各候補者に対し、他の人に代わってもらうことはできないか、時期を変更できないか等の質問がされて、その忙しさの程度を確認するとともに、やわらかい表現で、裁判員になるための日程調整を促していたように見えた。
     しかし、もし日程調整を促すとすれば、一番有効なのは、当日ではなく、約6週間前に呼出状が送付された時である。その時に、会社や所属団体、家族などに協力してもらいやすい状況を作る必要がある。例えば、裁判所から、本人宛の呼出状を送付するだけでなく、「○○様の勤務先やご関係の方々へ」という宛名で、「ぜひご本人が裁判員として出頭できるように日程調整等に協力していただくようお願いします。」という趣旨を記載した文書を同封し、その文書をそのまま勤務先に出せるような工夫をする必要があると感じた。


  3. 模擬裁判・模擬評議
     選任手続の後、DVDに収録された公判を見、午後は4時40分まで評議が行われた。私たちは、別室での評議をスクリーンを通して傍聴した。
     公判のシナリオは、当会でも昨年3月にテレピアホールで行った「カラオケ殺人未遂事件」、争点は、・被告人が被害者を刺したか、もみ合っているうちに刺さったのか、・未必の故意があったかの2点である。
     このシナリオは、被害者や被告人の供述の具体性が足りず、対峙した2人の距離が各人の言う距離だったとして、被害者や被告人の言うことが可能なのかどうかが評議の際に長い議論になってしまう。
     供述者は具体的状況をイメージをして供述しているはずであり、これからは、その状況が裁判官や裁判員に明確に伝わるように、法廷で人形を立たせて質問したり、その法廷場面の写真を撮る等の工夫が必要だと思う。反面、言葉だけで応答することによって、嘘を言っている人には具体的体験がないことを明らかにするのが反対尋問の役割だったのかもしれないと思い、視覚化による弊害の歯止めについても議論する必要を感じる。
     評議は、裁判官3人が殺人未遂派で、終盤にはかなり強い説得がされていた。多数決をして、殺人未遂で有罪となったが、裁判員6名のうち3名が反対意見だった。量刑については、余り時間がなく、過去の資料を見、簡単な評議で多数決を取ったところ、被害者にもかなり落ち度があり、実刑だが懲役1年3月という法律上の最低刑だった。
     最後に、一日座っていると最後にはお尻が痛くなってきた。連日開廷となれば、途中でストレッチの時間をとるとか、体力面でもなんらかのフォローがほしいと思った。





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