会報「SOPHIA」 平成19年4月号より

憲法問題シリーズ第13回
国民投票法・名古屋公聴会が開かれたことをご存じですか?

憲法問題特別委員会
委員  田巻 紘子

1 これで「公聴会」と言えるの?−開催まで
去る4月24日KKRホテル名古屋4階にてひっそりと、国民投票法・参院名古屋公聴会が開かれました。「何だか弁護士会の周りが騒がしいけど何やってるの?」と思われた会員の方々も多かったことでしょう。
 この日行われたのは、今年4月13日に衆議院が強行採決を行った憲法改正手続を定める国民投票法案について、参議院の審議の一環として開かれた公聴会です。この名古屋公聴会の開催が決定されたのはわずか5日前の4月19日。公聴会で公述人を務められた方たちの手元に資料が届いたのはわずか2日前のことでした。公述人は政党推薦のみです。
 極めて拙速な、「形ありき」と言われかねない公聴会の開かれ方だったのです。
2 国民投票法案の問題点と審議経過の問題点
この国民投票法案については愛知県弁護士会としても5月1日付にて「憲法改正手続法案の慎重審議を求める会長声明」を出していますし、日弁連としても繰り返し意見書を出しています。それだけ、主権者の意思の反映・運動規制・広報の行われ方など、問題点が多岐にわたる法案です。また、公聴会の開かれ方や衆議院の強行採決等からわかるように、その審議経過も極めて拙速なものです。
3 粛々と進められた公聴会
公聴会は参院憲法調査特別委員会から9人の委員の出席を得て、粛々と進められました。
 まず公述人4人がそれぞれ15分ずつの持ち時間で意見を述べ、その後自民・民主・公明・社民から各1人ずつ、1人持ち時間15分(質疑と応答の両方含む)で委員による公述人4人に対する質疑応答が行われ、全体で2時間で終了、という進行でした。
 公述人は自民推薦の鈴木勝美氏(愛知県国民健康保険団体連合会専務理事)、民主推薦の日沖靖氏(三重県いなべ市長)、同じく笠松健一氏(弁護士、大阪弁護士会)、公明推薦の網中政機氏(名城大学法学部教授、憲法学)でした。
 名古屋公聴会では「その過半数」(憲法96条1項)の立法化にあたって総有権者の過半数という考えを取らないとして最低投票率まで設けないということで良いのか、という点が一つの焦点となりました。民主党推薦の2人だけではなく、与党推薦の網中氏も最低投票率は必要であると明言されました。この名古屋公聴会を通じて「たった1パーセントの投票率でも憲法改正が成立するが、それが日本国憲法の想定している事態なのか」という問題提起がなされたと感じました。
 また、同じ3人の公述人はそれぞれ、審議をもっと慎重に行って欲しい、公聴会も「セレモニー」ではなく、そこで出された意見を踏まえてしっかり議論して欲しいと述べていました。実際、弁護士である笠松氏が指摘した、広報の在り方の問題点(CM放送の規制等)、広報協議会の問題点(国会発議後に国会が関与できるのか及びその中立性)、国民投票無効訴訟の問題点(管轄、効果等)については、公聴会でもほとんど素通りされ、議論はこれからであると感じさせられました。
 公聴会を傍聴しての全体的な印象は「やっぱりセレモニーなのかなぁ」という落胆です。
4 主権者の無視は許されない
憲法96条が国民に最終的に憲法改正についての判断を委ねている趣旨を踏まえれば、拙速な議論は許されませんし、手続法といっても主権者無視の枠組みを作ることは認められません。
 憲法の定める基本的人権擁護を担う弁護士会として、引き続き法案に対して声を上げていくことが大事だと思わされた公聴会でした。





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