会報「SOPHIA」 平成19年1月号より

名高裁が再審開始取消の不当決定
名張毒ぶどう酒事件第7次異議審

   名張事件弁護団  平 松 清 志

1 はじめに
2005年4月5日に名高裁刑事1部が名張毒ぶどう酒事件について、再審開始・死刑執行停止の画期的な決定を出してから1年8ヶ月。高裁刑事2部から決定告知日を12月26日と連絡してきたとき、これは請求人の奧西勝氏に晴れやかな正月を迎えさせるものと弁護団は確信していた。
2 声も出ない不当決定
12月26日午前10時、決定書を受領した鈴木泉弁護団長は、ページをめくるのももどかしく、主文を探した。そこには「原決定を取り消す。本件再審請求を棄却する」という予想外の文言があった。居合わせた弁護団一同が「なんだ、これは」「信じられない」とつぶやいたきり、声も出なかった。
再審開始の確定を期待して裁判所前に集まった支援者に対しても、鈴木団長はしばらく声を発することができなかった。
3 異議審での主張・立証
本件は@犯行の機会が請求人にしかなかったとする情況証拠A現場で発見された王冠の傷痕の証明力B請求人の自白の信用性の3点が問題となっているもので、弁護団は異議審において主として4つの主張・立証をした。
第1に、請求人の所持していたニッカリンTと犯行に使われた毒物との同一性について、当時のペーパークロマトグラフ検査で、ニッカリンTならば検出されるはずの副生成物が検出されていないことについて、検察官が検出されなかった理由をいくつか提起したが、これを宮川恒・佐々木満両教授の補充鑑定・補充意見によりすべて打ち破った。
第2に、ニッカリンTに含まれていた赤色色素の成分と量を特定し、これを白ぶどう酒に混入した場合の色調の変化をビデオ化して提出し、請求人の所持していたニッカリンTが犯行に使われたとは考え難いことを明らかにした。
第3に、当時の王冠製造業者の注文書綴りを検討した結果、本件ぶどう酒瓶の複式王冠の内蓋と外蓋の材質が違うのは不自然で、ニスが塗ってある内蓋は本件瓶に装着されたものでない疑いは一層強まった。
そして、第4に自白の信用性について、浜田寿美男、脇中洋両教授の心理学鑑定を提出し、無実の者がした虚偽自白である可能性を指摘した。
異議審でいちばん争点となった毒物鑑定について、検察官は新たな学者証人を立てることもできず、ただ、弁護側の立証にケチをつけるだけで、しかも、それは悉く論破されたものだった。したがって、異議審の主張・立証の経過を考えても再審開始は揺るがないものと弁護団は考えていた。
4 自白偏重と非科学的判断
今回の異議審決定の特徴は、自白の偏重と科学鑑定に対する無理解のもとに「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則を投げ捨てた、きわめて杜撰なものということができる。科学的素養のない裁判官が、毒物鑑定や塑性力学の鑑定について、その意義を十分理解しないまま漫然と「死刑判決」を下すことには恐怖すら覚える。
5 おわりに
このような無知かつ無恥な決定をそのままにしておくことはできない。まもなく81歳を迎える奧西氏を生還させるために、弁護団は全力を挙げて最高裁に臨む決意である。一層のご支援ご協力をお願いしたい。





行事案内とおしらせ 意見表明