会報「SOPHIA」 平成18年12月号より

人権賞「東海『非行』と向き合う親たちの会」に決定

   人権擁護委員会 委員  川 口   創

〈「非行」に走った子どもを持つ親たちの悩みに向き合い、
「子どもが成長する権利」を支える活動が評価され、人権賞受賞〉

今年度の愛知県弁護士会人権賞は、「東海『非行』と向き合う親たちの会」(通称ひまわりの会・代表八田次郎さん)に決まりました。

「非行」に走った子どもを持つ親たちの悩みを起点に、「子どもが成長する権利」をしっかり支えていこうとする活動が人権賞にふさわしいと高く評価されたものです。12月19日の授賞式には、代表の八田さん、事務局長の井上陽子さん、初代代表故小野木義男夫人小野木典子さんの他、当事者の親たち数名にも御出席頂きました。


〈「ひまわりの会」の発足〉

2001年、故小野木義男さん、井上陽子さん、木村隆夫さん、藤井啓之さんの4氏を中心に発足。当初は「非行」に走った子どもを持つ親たちが、それぞれ抱えている思いを吐き出し、支え合う場を作りたい、という思いで発足した。定期的に例会を設け、自分の子どもがどんな状況か、親としてどんな悩みを持っているか、親たちが遠慮なく思いを話す場を作ってきた。親はどんなことも話して良いと言うことを基本とし、説教はしないことを決めている。「非行」に走った子どもを持つ親の多くは、自分を責め、自分を追いつめてしまっている。自分の悩みを受け止めてくれる場がない。例会でそれぞれに悩みをとにかく話すことによって、自分を回復し、子どもと向き合うきっかけを持つことにつなげている。また、例会等を通じて、「子どもも自分に話を聞いて欲しかったんだ」ということへの気づきもある。


〈活動の広がりと深化〉

現在の会員数は約130人であるが、発足から現在までに、例会に1回でも足を運んだ人、会員だった人の数を合計すると300人を超える。現在は活動の地域も広げ、豊田や三重でも例会を開くようになった。

さらに、活動をしていく中で、次々に課題が生まれ、活動が深まってきた事実もある。

現在は、会員の子どもにも声をかけ、積極的に子どもとかかわり、子どもから学んでいく姿勢も持ちながら取り組みを作っている。

例会の他にも、「思春期講座」といいう連続学習会や公開学習会を開催し、専門家や研究者、弁護士の方々と共に非行問題についての学習を深めると共に、地域の親たちとの新たな繋がりを築いてきた。また、非行経験のある若者を講師として招き、考えなどを率直に質問し、子どもから学び吸収する機会を設けている。月1回、「ひまわり通信」という会報を発行し、例会の報告を中心に、学習会の情報などを掲載している。さらに、「非行」に走ったこどもを持つ親からの電話相談も行い、2005年からは無料電話相談を常時開設し、常時相談を受けている。

地域で大人が子どもに対する向き合い方を失い、また「非行」少年や家庭を排外する風潮が強まる中で、親と子どもの支えになるこの会の果たしている役割は極めて大きい。


〈インタビュー〉

−会の事務局を支えてきた井上陽子さんにインタビューさせていただきました−

−人権賞の受賞おめでとうございます。

私たちのような小さな活動にスポットを当てていただき、本当にありがたく思います。この人権賞は、必死の思いで我が子に向き合ってきた、そして今も向き合っている親一人一人に与えられたものと受け止めております。そして、この会を支えてくれている多くの世話人に贈られたものと思っています。


−会の活動を始めてからの5年はどうでしたか?

ただただ、非行に走った子どもを持つ親たちが集まって話をする場が欲しい、と思って始めた活動です。しかし、この5年の間で会の活動が広がり、多くの親たち、子どもたちから沢山のことを日々学びながら前に進んできたという感じです。その過程で、私たちは多くのことを学び、活動も深化してきたと思っています。私の実感ですが、親はどんな子どもであっても、口でどんなことを言っていても、「子どもを見捨てないで向き合っていきたい」という深い愛情を持っています。そこをしっかり支えていかないといけないと思っています。

会の親たちは、子どもの非行を止めさせたい、しかし止めさせられなかった。そうしてこの会にたどり着きました。非行を止めさせようと追えば追うほど子どもが離れていく現実。一方、子どもは「俺のことを分かって欲しい」という思いを強く持っている。そのことを若者たちの講演等から実感してきました。子どもの思いに向き合い寄り添うことなくして、子どもと一緒に「非行」に向き合うことは出来ません。

例会や講演会等を通して、「非行」の世界を知り、子どもたちを知る。その原点からとても大きなものを学びとって来た5年間でした。本当に「小さな窓からとても大きな世界が見える」。しんどいこともそれは山ほどあったけれど、素晴らしい体験と発見の連続でした。


−「例会」はどんな場なのでしょうか?

月1回の例会では、波乱に満ちた親子の物語を語り合い、聴き合うことを積み重ねてきました。親たちはみな、孤独です。自分たちを責めています。この場に来ていっぱい話して、いっぱい聴いて、自分を少しずつとりもどし、そして変わっていきます。侮蔑もない、憐れみもない、説教もない。「分かる分かる」「うちもそうだよ」苦しさを受け止め、共感しあえる仲間たちに会えたことで、もう少し頑張ってみようかなという気持ちがよみがえるのです。子どもの「非行」を乗り越えたOB・OGたちの寄り添いもとても大きな力になっています。

例会で語ることで、もつれていた親子の歴史がときほどかれ、親たちが我が子への愛情を再確認する積み重ねでした。その愛情の再確認が何よりも大事なのだと思っています。


−今後のことについて

非行に走った子どもたちの多くは、いじめられたり、被害体験、被虐待などで心に傷を負っています。そこに向きあう親子関係をこの会を通じて見つけていって欲しいと思います。今、豊田市と三重でも会の活動を始めました。ひとりぼっちで悩んでいる親たちに、少しでも会の存在を知ってもらいたいと思います。

また、若者たちに講師になって話してもらった非行の世界やその時の思いなど、子どもたちの声を書籍の形にして、多くの人に読んでもらいたいと思っています。

財政は会員の会費で賄っていて、とても厳しいのですが、気兼ねなく親たちが集まれる独自の事務所を持ちたいと考えています。


−熱い思いが伝わってきます。益々活動が発展することを期待します。弁護士会の先生方にも会員になってもらったり、カンパしてもらえると良いですね。ありがとうございました。



(連絡先)名古屋市中区大須4丁目14−57
山岸ビル506号(090−1750−7770)
入会費(年3600円)・カンパの振込み先
口座番号郵便振替 00830−4−82405
口座名称  ひまわりの会







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