会報「SOPHIA」 平成18年11月号より

子どもの事件の現場から(54)
お節介なひとたち

   会 員  高 橋 直 紹

私が関わっている少年を預かっていた他県の施設で暴力事件が起こりました。事件を起こしたのは私の担当している少年と同時期に入所した19歳の男の子でした。次男坊の彼は、「子どもは一人でいい」という家の方針により、幼い頃からネグレクトされ、親族の結婚式などの行事にも彼だけ出してもらえないなどの酷い扱いを受けてきました。途中から施設に預けられ、いくつかの施設で暮らしてきた彼は、傷つきやすく問題行動に至ることも多く、施設では問題児として扱われてきました。また、愛情を注がれてこなかった分、とても愛情欲求が強く、見捨てられ感が強い子でした。この施設に入ってからも、献身的に関わってくれる女性職員に母親を求めたのでしょう、彼はその職員に心を開けば開くほど、その職員が少しでも自分の方を向いてないと感じると、暴れたり外に飛び出したりと問題行動を度々起こすようになりました。そして、些細なことがきっかけで、彼はこの職員に暴力を振るい、大けがを負わせるという事件に至ってしまったのです。

この職員からこの事件が起こる前から相談を受けていました。私は、献身的に関わる彼女に感銘と敬意を感じていましたが、彼の問題行動がエスカレートしていく中で、もう施設内で対応できないのではないか、家庭裁判所などの第三者が入る方が彼にとってもいいのではないか、などとも感じていました。

この事件で少年は逮捕され家庭裁判所に送られました。女性職員は、その後も色々走り回り、地元で付添人を捜しましたが、付添人はなかなか見つかりませんでした。私が付添人にとの話もありましたが、片道2時間の距離で少年との面会もままならず、また、私が担当している少年との関係もあり、結局職員から話を聞くことしかできませんでした。

何とか弁護士を見つけ付添人活動をして頂いたようです。結果は少年院送致。ベストの結果だったかはともかく、彼が心の傷を癒し自分と向き合う大切な時間になりそうです。

女性職員は、その後も、彼との関わりを模索しています。本当に頭が下がります。彼女は付添人になってくれた弁護士に今後も彼と関わって欲しいと頼んだのですが、審判が出たことで弁護士としての仕事は終わったと断られたそうです。真っ当な対応です。

自分たちならどうだろうか・・と考えることがあります。愛知県弁護士会の会員の付添人活動は諸先輩弁護士方の活動を範として、少年のパートナーとして関わり、事件が終わったあとも関わり続けるものもいくつかあります。その雰囲気は若手の弁護士にも引き継がれ、最近でも試験観察になった少年の家庭教師役を買って出た若手の付添人もいました。

このような一面「お節介」な活動を弁護士がすべきものかどうか議論があると思います。また、全ての少年に対しそのように関われるわけでもありません。でも、私たち大人が、関わってしまった者として、その後も関わらざるを得ない子どもたちもいます。関わってもうまくいかなかった例もありますが、その少年の自立に多少なりとも関われたと感じられるときもあります。そんなときには、何物にも代え難い喜びにもなります。

同期の裁判官が、「一人一人の少年と息長く関わろうとする名古屋の付添人活動は素晴らしい」と話していたことがありました。その評価が正しいかどうかはともかく嬉しい話です。






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