会報「SOPHIA」 平成18年11月号より

刑事弁護人日記(38)
うっとうしい刑事弁護人

   会 員  横 山 貴 之

1  シロの印象〜ある日の夕方、某警察署から電話がかかってきた。私の知り合いが逮捕され、私との接見を希望しているという。被疑事実を聞いてみたが留置担当官の口からは話せないと言われ、取りあえず接見に行った。

接見して逮捕の理由を聞くと、ある女性と店舗の開業支援業務契約を結び、お金を預かったのだが、連絡が付かなくなってしまい、開業支援の話が頓挫してしまった。数ヶ月後、一部を返金することで話が付いたのだが、なぜか女性から詐欺の被害届が出たとかで逮捕された、とのことであった。

故意の存否が問題だと考え、本人には調書にサインしないよう指示し、関係者との面談、資料の控え等によって業務遂行状況を調査した結果、相当範囲を履行済みで、故意なしとの印象を受けた。そこで、再度接見し、シロであることを主張する、身柄拘束についても徹底的に争うとの弁護方針を取ることとした。

2  身柄拘束を争う〜弁選を出しがてら担当検察官に面会し、勾留しないよう求める旨の意見書を提出すると共に、「履行不能の問題だけで、刑事事件性はない」と申入れたが、「ワハハハハハハ」と一笑に付される。案の定、勾留+接見禁止決定が出たため、準抗告するも棄却。直ちに初めての勾留理由開示請求をし、担当裁判官(たまたま準抗告審に左陪席として関与した裁判官)を釈明攻めにし、「罪証隠滅のおそれが『抽象的に』『あるだろう』と考えている」「罪証隠滅の『余地』はある」等、勾留の要件ありとの判断と矛盾する回答を引き出すも、やはり後日勾留延長され、準抗告も棄却された(勾留理由開示公判には多くの若い裁判官が傍聴に来ていた)。

3  起訴猶予処分〜勾留延長後、起訴の可能性を踏まえ、公判に備えてさらに関係者の調書の作成等の証拠収集を行っていたが、ある日、検察官から「預かった金の一部は返金しているようだが、残金は返還しないのか」との電話があった。「詐欺の故意はないし、開業支援の話が頓挫したのも相手方の責任だから、債務不履行にもならない。残金の返金については即答できない」と答えるが、検察官が「返金した方が絶対に良い結果になる」と言うため、被疑者と相談して決める旨回答して電話を切った。

被疑者と接見し、残金の返金をし、可能であれば相手方の上申書を取った方が起訴猶予の可能性がある旨説明したところ、了承が得られたため、返金を行った。相手方からも「不起訴等の出来るだけ寛大な処分を」という上申書が得られたため、検察官に提出。満期日に無事に起訴猶予・釈放となった。

4  研修所の刑事弁護教育は非実務的か〜私は、身柄拘束の根拠がないと確信し、被疑者の意向も確認した上で行動したつもりだが、勾留理由開示公判を担当した裁判官は当然イイ顔をしなかったし、検察官からも「研修所の教育を鵜呑みにして、あそこまでやるのはどうかと思う。被疑者自身も困っていると言っている」等と言われた。

それぞれの職責上の立場が異なる以上、様々な考え方はあるが、被疑者からは勾留理由開示公判で弁護人以外の仲間に会えたことは感謝されたし、勾留理由開示までやらかす弁護人の存在を裁判所に示すことで、安易な勾留傾向に少しでも歯止めがかかるのであれば、弁護人として動いた価値もあったと思う。今後も不合理と判断した身柄拘束に対しては、うっとうしく対応したい。






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