会報「SOPHIA」 平成18年10月号より

未来へ響け生き物たちの歌声
日弁連人権擁護大会シンポジウム 第1分科会

   会 員 原 田 彰 好

第49回人権擁護大会シンポジウムは10月5日釧路で開催されました。第1分科会のテーマは「北の大地から展望する人と野生生物の共生」、内容は「生物多様性」の実現のための現状の問題点の検討と必要な法制度の提言でした。

冒頭、基調報告として実行委員会作成の音楽・ナレーション入りプレゼンテーション画像が上映され、日本各地の生態系の現状と問題点が紹介されました。このプレゼンテーション画像とナレーションの原稿は高山の飯田洋弁護士(今回のシンポの実行委員会事務局長)が仕事も断って情熱を込めて作ったもので、大変好評でした(飯田事務局長はこれ以外にも実行委員会の中心的な役割を果たされました)。

基調講演その1では、吉田正人教授(江戸川大学社会学部)が、生物多様性とは遺伝子・種・生態系各レベルの多様性を指し、その危機の原因は人類の急速な活動の拡大にあり、これが生物の絶滅を幾何級数的に加速していることを解説しました。自然状態での種の絶滅には数万年から数十万年の時間がかかっていましたが、人間活動によって引き起こされている種の絶滅速度は1600年〜1900年には1年に0.25種、1900年〜1960年には1年に1種、1960年〜1975年には1年に1,000種、1975年以降は1年に40,000種と、急激に上昇し続けていると推定されているとのことでした。

基調講演その2では、柿澤宏昭教授(北海道大学大学院農学研究院)が、北海道で増えすぎて被害をもたらしているエゾシカの個体数管理を題材に、生態系管理の在り方を解説しました。日本ジカも“増えすぎた”として各地で駆除されていますが、エゾシカも爆発的に増えているようで、北海道は「順応的管理」という方法をエゾシカの個体数管理に応用しているそうです。「順応的管理」は今回のシンポのキーワードの一つです。

パネルディスカッションでは、釧路湿原の自然再生事業を題材に住民参加型の生態系管理の方法や、生物多様性の危機を克服するためには直接的に生物多様性の実現を目的とする法制度の導入が必要ではないかということなどが議論されました。釧路湿原は国立公園に指定され、ラムサール条約に登録されて「保護」されているはずですが、保護管理の方法ではやはり問題が発生しているのです。

今回のシンポ実行委員会での議論は、現在の法制度では生物多様性は十分保護できない、実効的な保護のための新たな法律を作り、体系的・総合的に施策を進める必要があるというものです。

生物多様性の問題は、我々が気付かないうちに、身近な自然が日々少しずつ消えていくという問題であり、これを意識的・目的的に管理していかなければ、身近な自然は単調なものに変わっていくことでしょう。






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