会報「SOPHIA」 平成18年10月号より

刑事弁護人日記(37)
逆送後、不起訴に!

   会 員  三 池 哲 二

1 平成4年4月弁護士登録した直後の少年事件でした。

ある暴走族の1台のバイクがパトカーとカーチェイスとなり、持っていた旗竿でパトカーの運転手の顔を突くなどしたため、パトカーが電柱に激突するという大きな事故へ。警察は面子をかけ犯人捜しをしましたが、犯人らはタオル等で覆面をしていたため、犯人捜しは難航。そのような中、少年Aが、被疑者として逮捕されました。

2 Aは、暴走族のメンバーではあったものの、当日の集団暴走自体に参加していませんでした。しかしAは、担当警察官に「認めないと、俺(警察官)の権限で、20年間刑務所にぶち込む」などと脅され、怯え切っており、面会に行った私に対し「先生、やっぱりやったことにした方がいいですか?」などと子供のように泣きながら、聞いてくる有様でした。私は、毎日面会し、「やってないなら、最後までやっていないと言い切れ」と激励をつづけました。

担当警察官に対しては、「違法捜査だ」と何度も抗議しましたが、担当警察官はその度に「違法捜査の証拠はあるんですか?」と繰り返すばかりでした。

Aは否認のまま、家裁に送致されました。

3 家裁送致後、刑事記録を閲覧したところ、7人の少年が、Aの参加を認める供述をしていることが判明。しかも当日のAの服装に関する供述まで完全一致。

さっそく調査官に面会し、少年が無実を訴えている旨を伝えましたが、調査官は、「先生は、本当にAの言っていることを信じていらっしゃるんですか?」と鼻で笑う始末で、腸が煮えくり返りました。

4 私は、7人の少年全員(うち少年B、Cは少年院送致)に手紙を出し事実関係を問い合わせましたが、何の返事もないまま時が過ぎ、あきらめかけていたところ、審判の数日前、少年院のB、Cから返事が届きました。BCとも、事件当日Aの姿を見たことがないこと、担当警察官から「認めないと、勾留延長する」などと脅され、嘘の供述をしたことを切々と訴える内容でした。

私は、さっそく少年院に行き、暴走族のリーダー格であったBに面会しました。Bは、本当のことをいう機会が与えられてうれしいと泣きながら、話しをしてくれました。

5 B、Cの手紙を証拠として、送致事実を全面的に争う旨の意見書を提出しました。

しかし、少年審判当日、家裁は、何ら記録を検討することもなく、「家裁で審理するには不適当」との理由で、逆送を決定しました。

私は、Aと母親に対し、地裁の裁判では、7年の少年を全員証人申請し、徹底的に無罪を争う旨を伝えました。Aも母親も、「頑張る」と決意してくれました。

6 ところが数日後、Aは何と不起訴処分で、釈放になったのでした。

検事は、BCの手紙から、公判を維持できないと判断したのだと思います。おそらく少年事件ということで、捜査を警察任せにしていたものの、記録を精査したところ、調書の不備に気がついたのでしょう。

私が散々裁判は長引くと伝えていたため、Aも母親も一瞬狐につままれたような状態でしたが、大喜びでした。






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