会報「SOPHIA」 平成18年9月号より

憲法問題シリーズ第10回
9条を生かす解釈を目指そう
〜辻元清美議員を招いての憲法学習会〜

憲法問題特別委員会 委員
土 面 尋 志

  1. 憲法学習会第5回が本年9月4日、辻元清美衆議院議員を迎えて、KKRホテル名古屋 名城観で開催された。秋暑の厳しいなか、約30名の会員が出席した。

  2. 憲法学習会第5回

  3. 今年初めから開催されてきた憲法学習会は今回で5回目になる。毎回各党の国会議員を1名講師として招き、憲法に対する各党の考え方を聞いて、質疑応答、議論をする。これまでに、民主党2回、公明党及び自由民主党それぞれ1回ずつ開催した。社民党そして護憲派は今回が初めてである。


  4. 辻元さんといえば、学生時代からピースボートを通じて社会から注目を浴び、その後、社民党から衆議院議員に、そして議員辞職、さらに刑事責任を問われ、昨年の総選挙で衆議院議員に返り咲いたという、“異彩”な経歴を持つ。当然人脈も多く、出席者の中にも、角谷晴重会員のご夫人とは大学受験時代の友人、近藤朗会員とはピースボート時代の盟友、大脇雅子会員とは社民党の元同僚議員と旧知の方も多かった。また、同日は、東京地裁刑事部で堀江貴文氏の第一回公判が行われた。開口一番、辻元さんは、「今日ホリエモンの裁判が行われているのは、たぶん東京地裁の104号法廷だと思う。私のときも104号法廷だった。あそこはとくに傍聴人が多いときしか使わないそうで、ちなみに私の前に使ったのはだれかと職員に聞いてみたら、麻原さんですと言われた。」と切り出し、会場の笑いをとった。さすが大阪人である。


  5. 昨年の総選挙後、従来衆議院に存在した憲法調査会は憲法調査特別委員会に組織替えをした。調査会から委員会に変わったことで、法案審議が可能になったという。自民党は選挙で圧勝して、憲法改正手続法いわゆる国民投票法を制定しようとしていると、辻元さんは危惧する。同委員会は、定数50名で、内48名は自民党、民主党、公明党のいわば改憲派で、残る2名すなわち辻元さんと共産党の委員のみが護憲派だそうだ。委員会は毎週木曜日に開かれるという。「48人を2人で相手するのはかなりしんどい。毎週木曜日はくたくたになる。」と愚痴をこぼされた。


  6. 昨年、自民党は新憲法草案を出した。自民党案について、辻元さんは、「公権力から主権者(国民)に命令する」内容であると、同草案を酷評した。そして、集団的自衛権の行使を認め、それを「法律の定めるところ」に留保する点を問題視された。そして、「歴代政権が、これまで海外での武力行使を認めなかったのは、曲がりなりにも9条の歯止めがあったからであり、この自民党草案ではもはやそれを不可能にする。」と語られた。


  7. 昨今、北朝鮮脅威論が9条見直しという改憲論に対して追い風になっている向きがある。辻元さんはこの北朝鮮脅威論に対しても、「北朝鮮のGDPは、日本の高知県1県分に相当する。高知県が攻めてきてそれが脅威か。」と反駁された。明快でまさに辻元節全開といったところである。


  8. 辻元さんは、従来の9条を守ろうという考え方からさらに進めて、9条を生かす解釈を目指すそうだ。そして、一例として、国際紛争の仲介役としての日本の役割を示唆された。すなわち、日本はあくまで紛争解決という名目でも武力行使はしない。その代わり、紛争予防の調停役を務めるべきだという。ノルウェーでは、すでに国際紛争、地域紛争、民族紛争の予防調停を行っているという。ノルウェーでは、民間外交が活発で、NPOが紛争当事国双方に医療支援などを行い、紛争当事者双方から信頼を得て、紛争仲介役を果たしているという。「日本も、医療、教育、技術など幅広い面で国際的に支援を期待されており、日本だからできる国際協力だ。」とも語られた。NPO出身の辻元さんらしい発想である。

  9. 辻本清美氏

  10. 9条の解釈において、社民党は、専守防衛のみは容認するという。そして、現在の自衛隊は3分して、専守防衛、災害救助、国際協力と3つの別の組織を作ってそれぞれ活動させるという。また現状の自衛隊の問題点を指摘され、より情報公開をして、民主的な組織にする必要を訴えられた。


  11. この講演会の頃、自民党の総裁選挙が行われていた。圧倒的支持を得ていた安倍現総理がいう、「美しい国、日本」についても、「私は汚いのも好きだ、大阪は汚いのがいい、だいたい『美しい』なんて言う人は差別主義者だ。」などと切り捨てた。また、安倍総理が、5年以内の憲法改正を唱い、環境権とか知る権利を持ち出すが、詰まるところ9条を変えたいだけだと酷評した。そして、改憲派が多数なのは国会内だけで、国民は必ずしも9条改正に積極的ではないとし、「改憲派も国民投票やって否決されたら困るから、ここにきてトーンダウンしている。」と厳しく批判した。


  12. このように、終始辻元さん流のわかりやすいお話だった。たしかに、日米安保に対するスタンスとか、必ずしも国家間の総力戦を念頭において北朝鮮脅威論が唱えられているのではないこと、強制力の裏付けなき紛争調停にどれほどの実効性が期待できるのかとか、さらには自衛隊3分論は、組織が増える=ポストが増える=官僚が喜ぶ、その反面、組織が増える=人件費が増える=国民の負担が増えるだけではないかとかいった疑問もある。しかし、憲法9条に対する一貫したスタンスは、これまでの学習会に講師の方々が歯切れの悪い説明をしたのに比べて、好印象だったと思う。
     ところで、会場では、辻元さんの講演集を販売し、買ってくれた人にはサインをするという、今までの学習会にはなかったイベントが行われた。出席した会員の方々は、講演集は買ってもサインまでもらうことはないのかと思っていたら、ほとんどの出席者がならんでサインをもらっていた。かくいう私も、「食わねど高楊枝」とはいかず、ならんでサインをもらった次第である。







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